みなさん! ついにこの日がやってきました。
地球のかけら、今回が最終回です!!
2007年3月から2013年6月まで。6年ですよ、6年。
全92回。思えばたくさんの石を紹介したものです。
みなさん、いかがでしたか。少しはみなさんのお役に立てましたか。
さて、それでは最終回。
最終回にふさわしい石というと、これはもう水晶しかないでしょう。
鉱物は水晶に始まり水晶に終わる、とは鉱物趣味人のあいだで
昔から言われていることですが、まったくもってそのとおり。
カミさんが初めて買った鉱物もやはり水晶だったそうだ。
遥か昔(詳しくはいわない)、小学校1年生のときから欲しかったらしく、
お小遣いをためて3年生のときについに買ったんだそう。
ポリッシュされた山入り水晶(ファントムクリスタル)を
手にしたときは本当に感激したと言っていた。
ちなみに、3000円だったらしい。
「小学生がお小遣いをためるって、大変なんだからね」
とはカミさんの弁。
もちろん今でも大切にしてます。彼女の始まりの石ですからね。
←始まりの石
この写真を見てもわかるように水晶はキレイだ。
しかも数が多い。まったくレアでなく世界中で産出する。
鉱物に興味のない人でも宝石の原石というと、まっさきに思い浮かべるのが
水晶のあの形であることからも、水晶が最も身近な鉱物であるといえる。
しかし、だからこそ水晶は奥が深いのだ。
産地によってすべて違う形、違う色、違う透明度。
にもかかわらず、一目で水晶とわかるその規則性。
水晶と聞くだけで……、ああ、なに、この安心感。
そんなわけで、これまで何回も水晶を紹介していますが、
あらためて日本の水晶と世界の水晶を見てもらいたいのです。
今回紹介する水晶はすべてカミさんのコレクションからの抜粋です。
先ずは日本から。
国内における紫水晶3大産地。
上から順に石川県尾小屋鉱山、栃木県足尾銅山、宮城県雨塚山
尾小屋鉱山産は砲弾型というか丸まるとした形が多い。桃色がかった紫。
足尾銅山産は細身のスラッとしたタイプ。透明度が高く青みがかった紫。
雨塚山産は赤みがかった紫で同じく透明度がとても高い。
紫水晶は特別な感じがするので先に並べてみました。
続いて各地の水晶を。
岩手県玉山金山産
わりと端正な水晶らしい水晶。不純物が無く無色透明。
秋田県荒川鉱山産
白い水晶に抹茶を振りかけたような水晶。この色の付き方はここだけのもの。
長野県麻績(おみ)産
これぞ正しく氷の化石。とっても冷たくて美味しそう。スケルトンっぽい。
富山県黒岳産
見てのとおり透明感がとても高いけれど、条線に特徴あり。真っ直ぐにスラッとしている。
山梨県水晶峠産
紫とか針入りも出るけれど、この美しいファントムこそがこの産地の特徴だと思っている。
山梨県竹森産
細い針状のトルマリンが特徴。透明感が高く濁ったものはあまり見たことがない。
岐阜県柿野鉱山産
細かすぎる毛状のインクルージョンが緑の原因。入り方の度合いはひとつひとつ違う。
岐阜県ちんの峠産
基本煙水晶。透明なもの黄色いものもある。双晶も多い。
愛知県延坂(のべさか)産
とにかくキラッキラしている。このキラキラこそが特徴。とくに群晶がキレイ。
奈良県五代松(ごようまつ)鉱山産
黄色が特徴の水晶。さらに結晶の中が空洞になっている。
写真のものは下3分の1が空洞だけれど、
ものによっては上から下までストローのように空洞になっている。
大分県尾平鉱山産
何と言ってもマリモ入り。小さな丸い粒々といえばココ。内包物好きにはお勧め。
続いて外国の水晶。
メキシコ産
中国産
ブラジル産
ブラジル産
不明
不明
不明
不明
あはは、外国産、あんまり持ってなかったよ。
っていうか、たくさんあるんだけれど、何だかブラジル産ばっかりだった(ブラジルってすごいね)。
いや私ね、日本産と外国産を並べて言いたいことがあったのですよ。
「みなさん気づきましたか?」って言おうと思っていたんですよ。
でも、まあしょうがない。自分で言っちゃいます。
で、何を言いたかったのかと申しますと、
「日本産の水晶ってものすごく種類が多いでしょ」ってこと。
外国ってたくさん水晶が産出するけれど、産地による違いってあまりないんだよね。
ひとつの国から産出する水晶はだいたいどれも同じような感じ。
もちろん、内包物ということで見るとかなり違いはあるけれど、結晶の形ってことで見てみると、
そんなに違わない。
それに比べて日本は産地ごとの形が違いすぎるんです。
何だか世界中の水晶が集まっているみたい。
さらに言うなら、水晶に限らず世界で見つかっている石はほぼすべて日本でも見つかっている。
なんだか日本って世界の縮図のような気さえしてきます。
ここ数年、パワースポットだ何とかだって言いますけれど、もしそういうのを信じるとするならば、
日本って国中がパワースポットなんじゃないのかなって思うんです。
日本ってスゴイって思わない?
そんな日本に住んでいる私たちはとっても幸運だと思っています。
それではいよいよお終いです。
これまで「地球のかけら」を読んでくださった皆様に心よりお礼を申し上げます。
「地球のかけら」が皆様にとってより充実した石趣味の一役を担えたとしたなら、
これほど幸せなことはありません。
またどこかでお会いできる日を楽しみにしています。
ありがとうございました。
辰尾良二・辰尾くみ子
今回はちょっとむずかしそうな感じがするのですが、それは気のせいです。
あまりたいしたことは言っていません。
これまでもたまーに出てきた結晶系(けっしょうけい)という単語。
結晶系ってなんじゃろな。 と思っている人もきっといるんじゃないかな。
結晶系というのは鉱物をつくる分子の並びを分類分けしたもの。
結晶には必ず複数の軸があって、結晶軸と呼んでいるんだけれど、
その結晶軸にあわせて分子が並び結晶面が形づくられる。
よって、結晶系が同じなら、ぜんぜん違う鉱物でも基本的に同じ形になる。
ここで大切なのは結晶軸の本数と長さ、そしてその角度。
結晶系はこの3つに注目してもらえば、まあオッケーかな。
この3つで結晶の形が基本的に決まってしまうというところがミソなのですよ。
石好きにとって結晶の形って重要でしょ。
だから、結晶の形を決める結晶系を知っていることは、けして損にはならないと思うよ。
で、それらは全部で6種類あって、すべての鉱物は必ずそのどれかに分類される。
今回はその6種類を簡単に紹介します。
ところで、前回のこのコラムを読んでくれた人は、あれ? と思ったりしたかな。
そう、確かに私は前回「結晶系は7種類ある」と書いた。
それなのに今回は6種類と書いている。
6種類なのか7種類なのか、理由は後ほど。
先ずは結晶系の名称から。
○等軸晶系(とうじくしょうけい)
○正方晶系(せいほうしょうけい)
○斜方晶系(しゃほうしょうけい)
○単斜晶系(たんしゃしょうけい)
○三斜晶系(さんしゃしょうけい)
○六方晶系(ろっぽうしょうけい)
とりあえず、この6種類ということで話を進めるよ。
○等軸晶系
結晶軸 3本
軸の長さ 3本とも同じ
角度 3本が90°に交わっている。
この等軸晶系が結晶系の中でも一番シンプル。
何てったって、わかりやすい。縦横高さがみな同じ長さだから、
それぞれの面が結晶の中心から同じ距離にある。
・この系に属する鉱物
ダイヤモンド、パイライト、ガーネット、スピネル、フローライト、マグネタイト、ガレナ、ラピスラズリなど
どう、みんな同じような形をしているでしょう。
コロッとしているところが特徴かな。
○正方晶系
結晶軸 3本
軸の長さ 3本のうち2本だけが同じ長さ。高さ方向の1本だけが違う
角度 3本が90°に交わっている
なぜ、1本だけ長さが違うのかといわれても、だってそうなんだもん。
としかいえないところが悔しい。
強いていうなら自然がそれを選択したというところか。
でも、だからこそ馴染みのある長細い結晶が生まれるのだ。
・この系に属する鉱物
スキャポライト、アポフィライト、ルチル、キャルコパイライト、ジルコンなど
断面が四角くて縦長。
これのイメージは牛乳パック。開け口の部分を無くしてみたらこの形。
写真のアポフィライトは頭の部分だけだけど、正しくそうでしょ。
○斜方晶系
結晶軸 3本
軸の長さ 3本とも違う
角度 3本が90°に交わっている
上の2つの晶系とあわせて、ここまでが90°に交わっている結晶軸を持っていることが特徴。
直角に交わっているのに、なぜ斜なのか。
・この系に属する鉱物
トパーズ、セレスタイン、アラゴナイト、スティブナイト、サルファー、アレキサンドライトなど
横から押されて歪んでいるように見える結晶が多いかな。
それは結晶軸の長さが3本とも違うからこそで、断面が正方形から菱形まである。
たまたま2本が同じ長さになったら、正方晶系と区別がつかないのでは?
○単斜晶系
結晶軸 3本
軸の長さ 3本とも違う
角度 3本のうち2本が90°で、残りの1本が斜めに交わっている
1本だけが斜めに交わっているって、何だかすごくバランスが悪い感じがするんだけれど、
でもそうなんだからしかたないよね。 って、ちょっと投げやりな印象を持っているワタクシです。
・この系に属する鉱物
レピドライト、サニディン、ジプサム、スフェーンなど
この結晶系の鉱物自体あまりみかけない。
ジプサムは巨大な結晶が発見されているけれど。その他は本を見てもあまり載っていない。
ということである意味レア鉱物。
○三斜晶系
結晶軸 3本
軸の長さ 3本とも違う
角度 3本とも斜めに交わっている
一番フリーダムな結晶系のような感じ。
でも、これはこれでこの結晶系にそった形をはみ出すことはない。
・この系に属する鉱物
ロードナイト、ターコイズ、カイヤナイト、パイロクスマンガン石、アマゾナイト、ラブラドライトなど
この晶系の鉱物も数が少ない。
さらにいうなら大きな結晶に育つものも少ない。ターコイズとかアマゾナイトなんか
結晶が細かすぎてひとかたまり。形なんかわからないよ。
単斜晶系の鉱物と並んでレアであること間違いなし。
○六方晶系
結晶軸 4本
軸の長さ 3本が同じ長さで1本だけがちがう
角度 3本が120°で交わり、その3本に対し高さ方向の1本が90°に交わっている
さあ、来ましたよ。もっとも馴染み深い六方晶系ですよ。六角柱ですよ。
石に詳しくなくても、結晶というと誰もが六角柱を想像するのは水晶のおかげ
なんだけれど、そのせいで結晶はみんな六角柱だと思っている人が多い。
そのくらい身近な結晶系なのに、上記の5つに比べこの六方晶系が一番ヤヤコシイ。
何てったって結晶軸が4本もある。
その中で同じ長さの3本が同一平面上において120°で交わる。これで六角形が形づくられるわけ。
そして残りの1本がそれに対して垂直に伸びることによって六角形が六角柱になるっていうことだ。
・この系に属する鉱物
トルマリン、アクアマリン、水晶、アパタイト、ロードクロサイト、カルサイト、コランダム、ヘマタイトなど
一番なじみの深い結晶が一番特殊な結晶だったというわけ。
でも、鉱物としてみると一番種類が多いから、ぜんぜんレアじゃないところが
何だか偉ぶってなくていいよね。
そして、ここからが問題。「六方晶系はヤヤコシイ」の最大のヤヤコシイ。
それは三方晶系(さんぽうしょうけい)をこの中に含んでいるということなのだ。
三方晶系。それは7番目の結晶系。
水晶もトルマリンもカルサイトもコランダムもヘマタイトも三方晶系である。
しかし、「六方晶系(三方晶系含む)」と表されているときが多く、三方晶系は六方晶系の
一形態に過ぎないとされてきた。
ところが、最近は「三方晶系は六方晶系ではない」とする意見が増えてきている。
にもかかわらず、本によっては水晶を六方晶系としていたり三方晶系
としていたり、まったく統一されていない。
冒頭でいった結晶系は6種類なのか7種類なのかというのは、
この三方晶系を六方晶系に含めるのか、それとも独立させるのか、ということなのです。
鉱物学会さんのほうでもちゃんと決まってないみたいですねえ。
☆三方晶系とは
本を何冊も読んでみたのだけれど、どうも私の頭ではうまく理解ができないのですよ。
ある本には「六方晶系を半分にしたものが三方晶系」と書かれていたりするけれど、
どう半分にしているのかがわからない。
じゃあ、3分の1にしたら二方晶系? ←んなバカな。
またある本には「六方晶系ならば隣り合った面は同じにならなくてはいけない。
それに対し三方晶系はひとつおきに同じ面が現れる」と書かれている。
これは、アクアマリンなどのベリルは結晶の断面がどれもほぼちゃんとした六角形なのに対し、
水晶はちゃんとした六角形なんてほとんどなく、たいていは一面おきに同じ大きさの面が現れる。
それこそが三方晶系の証ということらしい。
左は六方晶系であるアクアマリンの結晶。
右は三方晶系である水晶の結晶を真上から撮ったもの
確かに両方六角形ではあるけれど、水晶の結晶はまるで三角形に見える。
一面おきに面の大きさが極端に違っている。三方晶系でなければこうはならないそうだ。
みなさんは含む派? それとも独立派?
さて、長々と引っ張ってきた結晶系のお話しもそろそろ終了。
あらためてそれぞれの結晶系の鉱物を見てみると、色がついて透明で、
わあキレイとなるのはたいてい等軸晶系か六方晶系。ま、これは私のイメージだけどね。
それから、鉱物は天然のものだから、頭が欠損していたり、
結晶が正しい形から大幅にずれたりしているから、正しくこれというものはなかなかないよね。
欠損していず、これが正しい形ですという結晶がもしあれば、
結晶図とかに照らし合わせてもわかりやすいのだろうけれど、
そんなものは100パーセント有り得ないから、なかなかわかりにくい。
でも学者さんとかはその天然の結晶を見て、これがこっちにずれている、
これがこっちにずれている、だからこれは○○晶系だとわかるらしい。
それでも、ひとつの石をたくさん見ていると、多少形が歪んでいても、
どれがどうずれたかが素人なりにわかるようになってくる。
その石にとにかくたくさん馴染んで慣れることカナ。
トパーズなど私たちはたくさん採ったから、どんなに歪んでいても、
ほんの欠片でもトパーズってわかるようになったよ。トパーズだけだけどね。
それにしても、不思議だと思わない?
自然って無限に複雑に見えるのに、本当のところ実は単純さを求めているんじゃないのかなって。
私が初めてパイライトを見たとき、そのあまりにも立方体な形に、
こんなの自然じゃありえないって思ったもん。
でも、それこそが自然だったんだよね。
ちょっと大げさになるけれど、現在見えている宇宙には地球にあるものと同じ元素しかないそう。
だからきっと宇宙もその本質は単純なのかもしれない。
そんなことまで考えてしまう鉱物って、やっぱりすごいなって思うんだ。
※画像はウィキペディアより
人類滅亡とかベルトがどうのとかを予定どおり通過いたしまして、2013年も早2月。
皆様いかがお過ごしですか?
今年はそんな激しいイベントとかはなかったと思いますので、
一年、落ち着いてすごせたらいいなと思っております。
それではそんな2013年最初に紹介する石は、
「以前には希少すぎてコレクターズアイテムの域を出られなかった石が、
ついに多くの人に知られるようになった」っていう石。
そういう石といえば、私はトラピチェ・エメラルドが正しくそれなんじゃないかと思うんです。
トラピチェ・エメラルド。
それは150年ほど前にコロンビアのムゾー鉱山で発見された、ちょっと変わったエメラルド。
ムゾー鉱山といえば鉱山のその名前がブランドになってしまうほど、
現在でも世界でもっとも美しいエメラルドを産出している鉱山。
そこから、ごくたまーに出てくる。
最近はマダガスカルとか他の国からも見つかっているけれど、ムゾー鉱山産にはかなわない。
※画像はウィキペディアより
写真のとおり結晶の中心から放射状に伸びている6本の黒い線が特徴。
ていうか、この黒い線こそがトラピチェのトラピチェたるゆえん。
※画像はウィキペディアより
これは「サトウキビ絞り機」の絵。
この機械をトラピチェまたはトラピッチというらしい。
見てのとおり、この機械を動かすための歯車というか動力部分にその模様が
似ていたからということでトラピチェという名前になったそうだ。
もちろん現在はこんなふうには動かしていないと思うけど。
ところで、トラピチェって、当時は鉱物の専門店やミネラルショーに行かないと
絶対にお目にかかることができなかった。
それに今でもそうだけれど、1センチに満たないくらいの結晶が何万円もする。
私としてもショーで見かけるたびに欲しくなっていたんだけれど、
「それを買ったら、もう他に何も買えなくなる」
って思うとどうしても手が出せない。手が出ないまま現在に至っております。
それが、ここ最近になって宝石店とかで指輪やペンダントになって売られているのを
見かけるようになってきた。
トラピチェという名前もけっこうメジャーになってきているようで、
「おう、なかなかやるようになったな(何を?)」とは思っているんだけど、でも値段がねぇ。
指輪とかになるとプラチナとかダイヤモンドとかを使っちゃうから、
ルースの値段プラス10万20万は当たり前なわけで……。
けっきょく手を出せないままでいるうちにすっかりメジャーになっちゃって、
これじゃあ「こんなの知ってる?」なんて自慢もできないよ、ちぇっ。 って感じです。
閑話休題
トラピチェの最大の問題はというと、「なぜこんな模様ができるのか」ということにつきる。
ちなみにこの黒い模様がなにでできているのかというと、曹長石(そうちょうせき:アルバイト)と
ベリル(緑柱石:りょくちゅうせき)の目に見えない極微細な結晶の混合物。
緑に発色したベリルの宝石名がエメラルドなんだから、ベリルの極微細な結晶はまあいいとして、
曹長石というのは単なる不純物(インクルージョン)でしかない。
その不純物がなぜ規則正しくあのような幾何学模様になるんだろう。
実は、これが2013年の現在でもよくわかっていない。
専門家がおこなったX線解析でようやくわかったことといえば、その結晶が2種類の
結晶系でできているということ。
結晶系というのは、四角くなったり丸くなったり六角形になったりする結晶を分類わけしたもの。
全部で7種類あって、すべての鉱物は必ずそのいずれかに分類される。
すべての鉱物は必ずそのいずれかに分類される(大切なことなので二度いいました)
結晶が六角柱になるベリルは六方晶系(ろっぽうしょうけい)に分類されている。
当然、エメラルドも六方晶系。
ところがトラピチェの中には三斜晶系(さんしゃしょうけい)が混在しているんだそう。
なぜそうなるのかはまったくわかっていない。
鉱物七不思議のひとつなのである(七つあるかどうかわからないけど)。
さて、トラピチェといえばエメラルドなのだけれど、トラピチェとはあくまでも模様のこと。
最近はエメラルド以外のトラピチェも見つかっている。
やはり同じ六方晶系の石がトラピチェになっている。
その代表的なものが、トラピチェ・サファイアとトラピチェ・ルビー。
サファイアとルビーはコランダムの色違いだから、サファイアがあるのならルビーがあって
当然なんだけれど、サファイアとルビーなんだよね。
こりゃまた高価な石がトラピチェになったもので……。
私はまだ写真でしか見たことがないのだけれど、トラピチェ・エメラルドの緑の部分が
そっくり赤や青に置き換わっているところを想像してもらえたらいいかな。
そこでですね、ちょっとこの写真を見てください。
○で囲ってあるところ。
直径約1センチ。
これ、何年か前に富山県で採集したサファイア。
コランダムの赤以外をサファイアと呼ぶんで、あえてサファイアっていっちゃいますけど、どうですか?
中心から放射状に6本の黒い線が入っているでしょう。
拡大するとこんな感じ。ちょっとわかりにくいけど。
こ、これって、トラピチェっぽくないですかね。
もしそうなら、自分で採集したトラピチェ・サファイアを持っているってことで、
すんごく自慢できるんですけど、どうですか? ちょっと強引ですか?
それでは最後に、ショップでトラピチェ・エメラルドを探すときは単なるエメラルドの中からも探してみて。
店員さんに気づかれなかったトラピチェが混じっていることがあるかもね。
そしたらラッキー。
それじゃ、また。
サーペンティン。
日本名は蛇紋石(じゃもんせき)。
※画像はウィキペディアより
白く不透明なこの石はヘビの紋様を持った石ということなのだけれど、
私はなんといってもサーペンティンという名前が好きなのだ。
だって、サーペントですよ、サーペント。
ザ・サーペントとすれば「西洋の古きヘビ」。ようするに悪魔のことなのですよ。
中世から近世にかけてはドラゴンと混同されていたり、東洋では竜だと思われていたりと、
なかなかうまく伝わっていないのですが、よくぞ日本人はこの石に蛇紋と名付けてくれました。
わかっているじゃないですか。名前をつけた学者さんはこの石の神話的本質を
理解していたに違いありません。
そうでなかったらこんな名前付けない。
そう、サーペンティンは神話を具現化させた石なのです。石になった悪魔なのです。
んー、かっこいい!
※画像はウィキペディアより
語源はもちろんラテン語。
サーペントの語尾に「ine:イン」をつけてサーペンティン。
正確なことはわからないのだけれど、この「イン」というのはギリシャ語で「~に似た」とか
「~の性質を持つ」という意味らしい。
現代では「ite:イト」と付けることになっているけれど、「イン」は
歴史的伝統的なものなのかもしれないね。
コーネルピンとか、スペサルティン(満礬柘榴石:まんばんざくろいし)とか、
トルマリン(電気石:でんきせき)もインだよね。
さて、サーペンティンのかっこよさをわかってもらったところで、それはどういう石なのか。
まず、サーペンティンは地下深くでできる深成岩であること。
それが、地殻変動などで地表に現れる。
※画像はウィキペディアより
だから、サーペンティンのあるところには必ず近くに断層がある。しかも巨大な断層。
日本でもっとも有名なのは新潟県から静岡県に走るフォッサマグナ。
フォッサマグナというと新潟県糸魚川市から富山県朝日町の海岸でヒスイを
見つけることができるのは有名な話で、
私も富山県に住んでいたときにはさんざんヒスイを探しに行った。
今思うとたくさんありましたよ、サーペンティン。
いや、たくさんどころではなく、いくらでもという感じで。
見た目は濃くて深い緑とちょっと黄色っぽい白い部分の混じっている石で、
ヌメッとした質感。でも触ってみるとサラサラでツルツルな感じの石。
マンガンと鉄を主成分にしているから、この白っぽい部分がサーペンティン。
でも、海岸に落ちていたものはほとんどが緑だったな。
たぶん、白ければ白いほどマンガンが多く、鉄が増えると緑っぽくなってくるんだと思う。
ところで、むずかしいことはパスするんだけれど、この石は本来、
橄欖石(かんらんせき:ペリドタイト)とか輝石(きせき:パイロキシン)が
蛇紋石化作用(じゃもんせきかさよう:サーペンティニゼーション)をという作用を受けて作られている。
それで、その過程でアンチゴライト、クリソタイル、リザーダイトという3つの鉱物が作られ、
混じり合っている。
この3つの石は肉眼でまったく区別がつかないことから、ひとまとめでサーペンティンと呼んでいる。
サーペンティンはこれら3つの鉱物が混ざったものをいっているんだ。
それでも、必ず均等に混ざっているわけではなく、偏りがあって3つの内のひとつが
単独で存在している場合もある。
その中でもとくにクリソタイルが単独になったときにけっこうおもしろい鉱物ができあがったりする。
クリソタイルってとても繊維状になりやすく、そうなったものが石綿(いしわた:アスベスト)。
最近のものには書かれていないけど古い文献にはサーペンティン・アスベストって書いてある。
この繊維状になったクリソタイルに石英が染み込んだものをヒスイを探しに行ったときに時々見つけた。
何とこれがタイガーズアイとかホークスアイにそっくり。
違うのは緑をしているってところ。
黄色ければタイガーズアイ、青ならホークスアイ。緑だったら何アイっていえばいいのかな。
それこそサーペントアイだとすんごくカッコイイかも。
しかも、波に洗われて研磨された状態で海岸に転がっているから、
お店で売られているものがそのままそこにある感じ。
いつかヒスイを探しに行かれることがあったとき、ヒスイばかりに目を奪われていては行けませんよ。
サーペンティン、そしてサーペントアイ(仮)もけしてお忘れのないようにね。
※画像はウィキペディアより
それにしても、もう一年が過ぎちゃいますね。
2012年。マヤの予言はどうなるでしょうか。
っていうか、さんざん煽っていた○○とか○○とかはどうするんでしょ。
「ささ、次、次」って感じで次の予言にいっちゃいますかね。
楽しみです、フフフ。
来年の干支はヘビ。巳年です。
もしかするとヘビに由来するサーペンティンがあなたに悪魔の力を与えてくれるかもしれないよ。
うー、かっこいい!
そんなわけで、少し早いですが、ステキなクリスマスを。
そして、良いお年をお迎えください。
第85回でリビアングラスを紹介したときに、「ツタンカーメン展が全国をまわっているから見に行ってくるといいよ」って言ったのを憶えてる?
8月になって夏もいよいよ本番。
夏休み中の学生さん達も、休みのない社会人さん達も、
見ているだけで涼しくなる石があるんです。
デンドリチックアゲート。
この石はまるで高原の森をそのままアゲート(瑪瑙:めのう)
の中に閉じこめたような石。
私は初めてこの石のビーズを見たとき、本当にその中に森があるように
見えて涼しくなるどころか感動してしまったくらいなのです。
とりあえずはみなさん、先ずは見に行くだけでもいいですから
お近くの石屋さんに足を運んでみてください。
それでは、そのデンドリチックアゲート。
アゲートはアゲートでいいのですけれど、デンドリチックとはなんなのか。
ご存じとは思いますが、石の中にまるで森が閉じこめられている
ような石というと、有名どころに忍石(しのぶいし)という石があります。
※画像はウィキペディアより
森というよりは草に見えなくもないけれど、いちおう森ということにして、
これは岩石の中にマンガン系の鉱物などが染み込んで森のような模様になったもの。
この忍石の英名がデンドライトというのです。
そう、デンドリチックのデンドリはデンドライトのデンドリなのです。
そして、チックというと、これは「~的な」とか「~っぽい」という意味。
ドラマチックとか乙女チックのチックと同じ。
だから、直訳すると「デンドライト的なアゲート」とか「デンドライトっぽいアゲート」って
感じになるんじゃないかな。
まあ、「的な」とか「っぽい」とか書いてはいますが、デンドリチックアゲートは
あくまでもデンドライトの一種だということをお間違えなく。
ちなみに語源はギリシャ語で樹木を表すデンドロン。
鉱物の分野ではないけれど、枝分かれをたくさんしているからということで、
デンドリマーという名前のついたものもあったりする。
名前的なことはこのくらいにしておいて、それでは模様と形の関係について。
形っていうと、デンドライトはどれもみな四角くカットされているでしょう。
大きくても小さくても、みんな平べったい長方形の形でね。
※画像はウィキペディアより
それに対してデンドリチックアゲートはビーズやカボッションにカットされている。
デンドライトが四角いのは、あの模様がなぜか2次元的な
平面状にしか入らないところが最大の理由。
丸く削るということはせっかくの模様を削ってなくしてしまうということになる。
だからデンドライトは平面的な形にしかカットできない。
そして壁に掛けたり棚に置いたりして飾る、あくまで絵として楽しむための
ピクチャーストーンという位置づけなんです。
ところがそれに対して、デンドリチックアゲートの模様は3次元として立体的に入っている。
その石の表面だけでなく奥の方にもずっとあの模様が続いている。
だから奥まで続くあの模様を全部見せるため、ビーズやカボッション
のように立体的なカットがされている。
こんなカットがされる石はアクセサリーとか宝飾品のあつかいになる。
この2つの石の違いは飾り石か宝飾品かの違いになると思う。
さて、話は変わってあの模様。あの模様っていったい何? って思ったりしません?
鉱物が入っているのならその鉱物にはその鉱物特有の結晶の形があるはずで、
なんであんな樹木のような形になってしまうのか、とっても不思議。
しかも、マンガン系の鉱物がなりやすいとはいうけれど、それ以外にも
ヘマタイト、ホランダイトなど多くの鉱物があの形になってしまう。
フラクタル
これがデンドリチックアゲートのキーワード。
通常、結晶が育つときはその元になる水溶液がゆっくりゆっくり冷却されて、
少しずつ少しずつ育っていく。
しかし通常状態ではなく、水溶液が結晶化してもいいのに結晶になれない
過飽和の状態にあると、結晶はとっとと育ちたくてどうにもならなくなってしまう。
そうなるとどうなるか。
その鉱物の原子はもうどこでもいいからくっついて結晶になっちゃえ!
って感じで、何だかくっつきやすそうなところにテキトーにくっついてしまう。
ところがっ!
テキトーにくっついていたはずなのに、そのテキトーが実はある法則に従っていた、ショック!
その法則というのが、フラクタルだーっ!
で、えーっと、フラクタルって何かというと、数学ではちゃんと定義されているんだけれど、
正確かつ簡潔に言い表すことは私の頭脳では不可能であります。
なので、ざーぁっと、大雑把にいってみると、「同じ形を無限に繰り返していくと全体と
一部が同じ形になり、それが自然の風景」という感じでしょうか。
あー、やっぱり意味不明だ……。
とりあえず下の図を見てください。
ひとつの辺の真ん中に同じ三角形を繰り返し無限に作っていく。
この図形がフラクタルの代表例なんですけど、途中から形が変わらなくなっているでしょう。
これと同じことが起こって下の写真みたくデンドロン状に結晶が育っていく。
他にフラクタルというと、身近なところでは雪の結晶がある。
この写真は雪の結晶のひとつ。
これなんかよく似ているよね。
そんなわけで、デンドリチックアゲートのあの模様が作られていくのでした(強引)。
ただ、立方晶系や正方晶系の鉱物なら、枝分かれの角度が90°、
六方晶系なら30°という見た目の違いがあるから、自分の持っている
デンドリチックアゲートの結晶系を見てみるのもおもしろいと思うよ。
って、ちょっとマニアックすぎるか。
先述のとおり、デンドリチックアゲートはどちらかというと宝飾品というイメージがある。
カメオみたいなペンダントになって百貨店の7階あたりで売られている感じ。
ビーズだってすごくキレイなものばかり。宝飾品と同レベルのものも多いと思う。
あはは、自分の買ったデンドリチックアゲートが宝飾品と同レベルだと思ったら、
涼しくなるよりも心は熱くなっちゃうかもね。
というわけで、涼しくて不思議なデンドリチックアゲートでした。
いやー、気づかなかった気づかなかった。
こんな重要な石をちゃんと紹介していなかったなんて。
第21回でも少しは紹介していたのだけれど、
それは「,(カンマ)」の形をした勾玉(まがたま)を紹介したときに、
ついでのような形で紹介しただけだった。
きっと、それをもって紹介したつもりになっていたんだろうな。
ホント私としたことが、だよ。
さ、その石とは。
そう、まったくもって意外なことに、なんとヒスイだったのですよ。
ヒスイって、私にとってはすごく身近な石。
なにせ、8年間も住んでいた富山県から新潟県にかけての海岸に
ヒスイが打ち上がるのだから。
私もカミさんと一緒に何度ヒスイ探しに出かけたことか。
そこで、あらためて今回こそヒスイをちゃんと掘り下げてみようじゃないかと
思った次第なのであります。
それで、そのヒスイなのだけれど、過去には大きく分けて2種類の石が
ヒスイ(ジェード)と呼ばれて混同されてきた。
◎ ひとつはジェダイト。日本名:硬玉(こうぎょく)。
これがヒスイ輝石で出来ている本当のヒスイ。
「本当の」というと何かもうひとつがヒスイの偽物という感じがして適切で
はないんだけれども、まあそこはちょっとカンベンしていただきましょう。
◎ もうひとつはネフライト。日本名:軟玉(なんぎょく)。
国ではネフライトのことを古くから玉(ぎょく)と呼び価値のある宝石として扱ってきた。
硬玉と軟玉。この2種類をあわせて昔はヒスイと呼んでいた。
感覚としては「ヒスイには硬いものと軟らかいものの2種類があります」
という感じだったようだ。
研究が進んだ現代ではこの2つはまったく関連のない別の石だと
いうことがわかっていて、硬玉だけをヒスイと呼ぶことになっている。
にもかかわらず、昔の風習で未だにネフライトもヒスイとして販売されているところが困りもの。
骨董品などを扱っている店で仏像や五重塔あたりに加工されヒスイとして売られている。
ネフライト自体は深い緑のとてもキレイな石だから、
ネフライトだとわかって買う分には何も問題はないと思う。
ここでのポイントは呼び名だよね。
まとめると、
硬玉と軟玉をあわせた広い意味でのヒスイ → ジェード
硬玉 → ジェダイト
軟玉 → ネフライト
というわけで、ひとくちにヒスイといってしまうと、この2種類があるということを
まずは憶えておいてほしいところかな。
もちろん一般的に価値が高く何百万円、何千万円もするのは硬玉(ジェダイト)ですので、
お間違えのないように。
また、このコラムではヒスイというとジェダイトのことをさしますので、
これまたお間違えのないように。
さて、みなさんはヒスイというと真っ先に何を思い浮かべるかな。
勾玉?
そうだね。でも、勾玉はちょっと違うんだよな。
勾玉はあくまでもその形であって、石の種類じゃないんだよね。
とすると、ここはやっぱり色を思い浮かべてもらいたいなと思うんだ。
ヒスイの色というと、たぶん100人いれば100人とも、
その色は緑だと思うんじゃないのかな。
うん、ヒスイというと緑。
これが世間一般の常識となっていることは間違いのないところ。
しかし、私はここで緑を否定しておきましょう。
ヒスイは白なのです。
白いヒスイが90パーセント。
残り10パーセントの中に緑をはじめ青、紫、赤、黄……。と、非常に多くの色があるのです。
そう、非常に多くの色があるというのもミソ。
「ヒスイ七色」という言葉もあって、ヒスイにはすべての色が
そろっているといっても過言ではないと思う。
すべての色があるのだから、当然、黒ヒスイだってあるぞ。
私も黒ヒスイを何個か持っている(最初の写真、上の段の真ん中)。
私の見つけた黒ヒスイはグレーが混じっていてイマイチ黒さに欠けるところがちょっと残念。
そういう他の色もあるということを考えると、緑はヒスイ全体の
1パーセントにも満たないと思うのだ。
よって、「ヒスイの色は緑」というのは正しくなく、
「ヒスイは緑がもっとも価値が高い」ということなら、そのとおりだといえる。
つづいて、鉱物としてのヒスイにはどのような特徴があるのか。
まず、ヒスイには結晶がない。
んー、これはちょっと乱暴ないい方だったかな。
でも、当たらずしも遠からず。
ヒスイ(もちろん硬玉ね)はヒスイ輝石という鉱物から出来ているのだけれど、
このヒスイ輝石が目に見えるような大きさの結晶に育たないんだよ。
どんなに大きくても0.5ミリが限界。
その微細な結晶がガッチリと絡まり合ってヒスイという石が出来ている。
だから、ヒスイは水晶のようにひとつの結晶を手のひらに載せるということができず、
ヒスイ輝石でできたヒスイという岩石を手のひらに載せることしかできない。
ちょっとヤヤコシイいい方になってしまったのだけれど、ヒスイとはヒスイ輝石
という微細な結晶の塊だということだな。
そう、だからヒスイには形がない。
水晶のように「あの形でなくなったらもう水晶じゃない」なんていわない。
どんな形になってもヒスイはヒスイなのだ。
そして次になんといっても硬い。
いや、字が違った「堅い」。
同じ「かたい」なのだけれど、その意味合いは大きく違う。
この「堅い」で表すならヒスイはダイヤモンドよりも圧倒的に堅い。
どういうことなのかというと、消しゴムとお煎餅を想像してみて。
消しゴムとお煎餅を両方ハンマーで叩くとどうなるか。
消しゴムはいくら叩いても割れることはないと思う。
一方、お煎餅の方は一発で粉々だよね。
次に爪でキズを付けてみようか。
消しゴムは簡単にキズがついちゃう。しかし、お煎餅の方はそう簡単にキズはつかない。
この場合、消しゴムがヒスイでお煎餅がダイヤモンド。
ダイヤモンドは世界で一番硬い鉱物といわれているけれど、
それはあくまでも「引っ掻きキズのつきにくさ」が世界一であって、
ハンマーなどによる衝撃にはめっぽう弱い。どちらかというと簡単に木っ端みじんになってしまう。
それに対しヒスイは簡単に引っ掻きキズはつくけれど、
ハンマーでバンバン叩いてもほとんど割れない。
たぶん、「堅い」順番ならばダントツで世界一になること間違いなし。
この堅い理由は前述のとおり、微細な結晶がギッチリ絡み合っているから。
それを断ち切って研磨したりカットしたりすることはダイヤモンドカッターを
何枚使っても足りないのだ。
ヒスイは鉱物の中でもっとも加工しにくい石といえる。
そう思うとヒスイで勾玉を作っていた古代の人たちは凄かったんだなと思うな。忍耐強いよ。
私は真似できません。
真似しようとしたカミさんは腱鞘炎になって、病院行きになりました。
それにしても、なんで硬玉なんて名前にしたのかね。堅玉にしておけばわかりやすかったのにねえ。
さて、次は知っておくとちょっとしたヒスイ通になれるという内容。
一番最初にヒスイには硬玉と軟玉があると書いたよね。
大きくこのふたつに分けられるって。
研究が進んだ現代は硬玉と軟玉には何の関連もないということが
わかったわけだけれど、実はさらに研究が進み硬玉も
「実はこれちょっと違うんじゃないの」ということになったのだ。
しかもヒスイの代表である緑が実はヒスイ輝石ではなくオンファス輝石という
別の鉱物だということがわかった。
最初にその話を聞いたとき、「おおー、どうなるヒスイ」と思ったのだけれど、
ヒスイ輝石とオンファス輝石はほんのちょっとしか違わない双子の兄弟のようなものだから、
「どっちも硬玉でいいんじゃね」という感じでたいした問題にもならず
現在は落ち着いていますというお話し。
これを知っていると、次に緑のヒスイを見るとき、
ちょっと違った見方が出来るかもしれないね。
それではお終いに。
ここまでヒスイの話をしたら、やっぱりヒスイ探しに一度は行ってもらいたいと思うんだ。
そこで、どうやったらヒスイが見つかりやすいかということを書いてみます。
ヒスイの打ち上がる海岸は地図のとおり。
この範囲ならどの海岸で探してもヒスイを見つけることができる。
ただ日によって潮の流れが違ったり、風の向きが違ったりで見つけられる場所に
偏りが出てしまうこともあるのでご了承ください。
この地図の姫川と青海川の上流に大元のヒスイ産地があるのだけれど、
そこは天然記念物に指定されていて見学は出来るけど持ち帰ることは出来ない。
そして、そこから流れ出たヒスイが姫川や青海川によって海へ流され、
そして海岸に打ち上げられる。
打ち上げられたヒスイは長い年月をかけて波で研磨されているから、それはそれはキレイ。
とりあえず海岸で探すのは白い石だからね。
前述のとおり、ヒスイは90パーセントが白。初めから1パーセントにも
満たないような緑を探していたのでは、永久にヒスイは見つからないと思う。
さらに真ん丸でないイビツな形をした石が重要。
ヒスイはとにかく堅いからなかなか丸くならない。
最初の写真を見てもらえばわかると思うけれど、どれも丸いとは言い難いよね。
単なる石の場合はホントに真ん丸になっているから、
いくらヒスイっぽく見えても真ん丸の時点でそれはヒスイじゃない。
あとは手触りかな。
ヒスイはやけにツルツルなんだ。
しかし、それはヒスイとただの石を触り比べなければちょっとわかりづらい。
白くて、イビツな形をしている石はとりあえずヒスイの可能性があるとして採っておくべき。
ここで重要なこととして、ヒスイかもしれない石は必ず糸魚川市にある
フォッサマグナミュージアムで鑑定してもらうこと。
何個もっていっても専門家が無料で丁寧に、しかも、あっというまに鑑定してくれる。
海岸で「鑑定してあげるよ」と親切に声をかけてくれる人もいるけれど、
私の経験では彼らの鑑定はかなりアバウト。
申し訳ないけれど、ほとんど当てにならないな。
これでまず1個ヒスイを見つけることができれば2個目は意外と簡単に見つかると思う。
そしたら次は白だけじゃなく青とか緑とか紫(ラベンダー)を探してみるといいと思うよ。
どうかな、味の素のような細かい結晶が見えるかな。
これがヒスイ輝石の結晶。
どんなに大きくても0.5ミリくらい。
この結晶が見えれば確実にその石はヒスイだといえる。
しかし、結晶がさらに緻密になり質が上がると、この結晶が見えなくなるんだよね。
やっぱり、最初はフォッサマグナミュージアムで鑑定してもらうことをお勧めするよ。
おっと、忘れてた。
このあたりの海岸はヒスイだけじゃなく、コランダムも見つかる上に、
日本新産鉱物である糸魚川石(いといがわいし)や奴奈川石(ぬなかわいし)も見つかる。
こちらはどちらも青い石。
さらに以前は宇宙からやって来たと考えられていたコスモクロア輝石もある。
ちょっとでも「ん?」と思った石は必ず鑑定してもらわないといけないよ。
それでは、これからどんどん暖かくなって、海とかへ行くことがとっても楽しい季節です。
海岸でのヒスイ探しもきっと楽しいですよ。
ただし、ひとつだけ注意。
海岸は日陰がありません。あっという間に熱中症になってしまいます。
そこだけは十分に気を付けてくださいね。
スカラベって知ってる?
いやいや、実は私もスカラベって初めて知ったんだけどね。
話は飛んじゃうんだけれど、6月まで大阪でツタンカーメン展をやっているんだってね。
新聞にもドーンと広告が出ていて、8月には東京にも来るらしい。
そのツタンカーメン展に行きたい行きたいとカミさんがうるさくて。
そうウチのカミさん、古代エジプト大好き人間なんですよ。
もう語りだしたら止まらないくらい。
若かりし頃はヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)教室にまで行っていたそうで、
それなりに読めもするらしい。
そのカミさんがツタンカーメンはなんたらかんたらとしゃべっている中に、
スカラベっていう単語がちょくちょく出てくるんだ。
それで、スカラベってナニカナ? って思った次第。
カミさんがいうにはツタンカーメンといえば黄金のマスクが有名だけれど、
他にも副葬品として黄金の首飾りというのもあるそう。
もちろん首飾りといっても副葬品としていくつもあるんだけれど、
そのなかのひとつ、その中心にはめ込まれているものがスカラベというんだそうだ。
※画像はウィキペディアより
この首飾りの中心、メスのカブトムシみたいな彫り物。
これがスカラベ。
古代エジプト語ではケペルとかケプリとか発音するそう。
だけれど、これ、フンコロガシなんだよね。
※画像はウィキペディアより
あーそう、フンコロガシかあ、なんて思ったんだけど、古代エジプトでは
「再生と復活の象徴」である聖なる虫なんだそうで、太陽神ケプリと同一視されていたんだそうだ。
たぶん東からのぼり西に沈む太陽をスカラベが転がして移動させていたと考えていたんだろうね。
壁画にもたくさん描かれているから、本当に神聖視されていたんだと思う。
※画像はウィキペディアより
さて、ここからが本題。
この首飾りのスカラベ、以前はカルセドニーで作られていると考えられていた。
ところが、最近の研究でカルセドニーではなく天然ガラスで
出来ていることが確認されたのだ。
天然ガラスとなれば、それがどこで産出したものなのかが問題になる。
調査団が調べた結果、現在のエジプトの西南。リビアとの国境近くの
リビア砂漠にそれが広範囲にわたり大量に存在している場所が見つかった。
分析の結果、それがスカラベとまったく同じものだとわかり、その産地が特定された。
※画像はウィキペディアより
古い文献によると、この砂漠のガラスは10世紀には知られてはいたのだけれど、
研究が始まったのが1998年。
それから調査団が編成されているのだから、この砂漠のガラスの存在が
ハッキリ確認されたのは21世紀に入ってからということになる。
これが、現在、非常に人気の高いリビアングラスなのだ。
※画像はウィキペディアより
意外だけれど、このリビアングラス、市場に出始めてようやく10年。
それまではリビアングラスという名称もなかった。
ところが、ところがところがっ、大きな問題がひとつだけ残されたのだ。
それは……
リビアングラスの産地はわかったさ。
年代測定で生成時期が3000万年前だってこともわかったさ。
でもさ、じゃあ、どうやって出来たんだよ。
ってことなのである。
これが当時、まったくわからなかった。
(あ、当時といっても、わずか10年前だからね)
天然ガラスというものは火山活動によって流れ出したマグマが
海水などで急速に冷やされて作られるもの。
そして、それらの特徴として、どれもみな色が黒いということがある。
さらに、温度も関係している。
マグマの温度は約1100℃。当然、天然ガラスはそれ以下の温度で生成されている。
このような天然ガラスは世界中のいたるところにある。
にもかかわらず、リビアングラスはこれらの天然ガラスとは根本的に異なっているのだ。
色は黄緑から黄色。
生成温度も約1800℃だということがわかっている。
これでは火山の噴火が原因で作られるはずの天然ガラスにまったく当てはまらない。
いったいどうやってリビアングラスは作られたのか。
これらの矛盾をクリアして天然ガラスが作られる原因は何か。
それはもう、ひとつしか考えられない。
隕石の衝突である。
それならば瞬間的に地表の温度は3000℃にもなるらしい。
大地を溶かし地表をガラス化させるには十分すぎる温度だ。
しかもリビアングラスには、地表にはほとんど存在せず、
隕石によってしか運ばれないというイリジウムやオスミウムなどの
元素が多量に含まれていると文献に書いてあった。
状況証拠はすべて隕石の衝突を示しているとしか考えられない。
現在、隕石衝突は確定されてはいないけれど、ほぼ間違いないだろうとされている。
さらに、その衝突も単なる衝突ではなく、数百メートルもある小惑星が
地表の数キロ上空で爆発した結果だと考えられている。
この衝突の仕方だとクレーターができないかわりに高温の
衝撃波による被害が甚大なものになるらしい。
隕石由来の天然ガラスの総称はテクタイト。
そのなかでモルダバイトだけが古くから知られ固有の名前がついていた。
そして今、リビアングラスがそれに続き固有の名称を得た。
リビアングラスのモルダバイトに対する利点はその大きさ。
どんなに大きくても、消しゴムくらいのサイズしかないモルダバイト。
それに比べリビアングラスは両手でないと持てないくらい大きなものもたくさんある。
今はまだ砂漠で拾ってきたそのままの状態で売られているけれど、
これからはスカラベのような彫刻や置物などがどんどん市場に出回ってくるにちがいない。
ここ数年でいきなり人気が出てきたリビアングラス。
その由来が古代エジプトにあることを知る人は古代エジプトマニア以外ほとんどいない。
そしてその生成が隕石起源であることもまた、ほとんど知られていないのだ。
最近やけに人気のあるエレスチャルとスケルトン。
新年明けましておめでとうございます。
平成24年、辰年。
本年がみなさまにとって、より良い1年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。
さて、去年の話で申し訳ないんですが、12月に池袋のミネラルショーに行って来ました。
以前にも話したと思うんだけど、うちのカミさんはヘンテコな形をした水晶が大好きで、
今回もヘンテコリンなそれがないかと探しに行ったんです。
で、ありましたよ。
買ってきたのは3つだけど、それぞれ満足できるヘンテコさ。
どれもヘンテコな形をしてるでしょう。
いったいどうなったらこんな形になるんだろう。
それを想像するのがとっても楽しい。
そしてその中でもお気に入りがこれ。
ホントになんでこんな形になるんだろう。
私たちは「龍の爪」って呼んでます。
それっぽく見えるでしょ。
で、それで龍の爪。ここで今年の干支の辰と繋がるんだけど、
龍ってその手に丸い玉を持っているよね。
これね。
この玉ってなんだろう、なにで出来ているんだろうって思ったことない?
私も詳しくは知らなかったのだけれど、あの玉は如意宝珠(にょいほうじゅ)と
いってサンスクリット語で「意のままに様々な願いをかなえる宝の珠」という意味。
でも、その如意宝珠、もともとは龍が持っていたものではなく、
インドのヘビ神が持っていたもの。
それが古代中国に伝えられたときに、ヘビ神を龍と訳したことによって、
龍と如意宝珠が結びついた。
だから地域によっては如意宝珠を持っていない龍も多くある。
ただし、この如意宝珠が何で出来ているかはわからない。
まあ、神の持つ宝が具体的な何かで出来ていると考えること自体が
意味のないことだといえるから、わからなくていいんだけどね。
それでもあえて考えるなら、「気の力」とか「人の心」とか、それら超自然的なもの。
それが具現化したものが如意宝珠なのだろう。
もちろん「意のままに様々な願いをかなえる宝」とはいえ、7
つ集めるために冒険をする必要はないよ。
もともと神の持ち物なんだから、人間がどうこうできるものじゃない。
人間は届かないと思いつつも、信じてお願いするしかないんだよ。
話は変わって、アジア全域で信仰の対象になっている龍なんだけれど、
爪が5本のもの、4本のもの、3本のものと3種類あるんだよ。
中国の龍
※画像はウィキペディアより
アジアの龍
※画像はウィキペディアより
日本の龍
※画像はウィキペディアより
このなかで、最高位である5本爪の龍を使うことが出来たのは
古代中国の皇帝だけだったそうだ。
遥か昔、アジアは「古代中国こそが世界の中心」という中華思想というものに
支配されていて、中国から遠く離れるほど「野蛮な土地」とされていたんだ。
実際、周辺国のほとんどが中国の支配下にあって、日本もその中に入っていた。
最高位である5本爪の龍が使えない周辺の国は4本爪の龍を使い、
さらに周辺の国になってしまう日本は4本爪も使えず3本爪の龍を使った。
そのような歴史があって、現在でも日本で描かれる龍は3本爪なのだそうだ。
ところが鎌倉にある建長寺(けんちょうじ)に描かれている龍にはなんと5本の爪がある。
最初に見てもらったこの写真。
これが建長寺の龍。
これが描かれた当時、本当ならば中国皇帝の逆鱗に触れ
とんでもないことになっていてもおかしくない。
でも日本は約1400年前、聖徳太子の時代に中華思想から抜け出し、
アジアでは唯一といっていい独立国になっている。
「日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す。つつがなきや」
というやつね。
だからこそ、中国皇帝と同等のことが出来たのだと思う。
ほとんどの国が20世紀初頭まで中華思想から抜け出せなかったことを
考えても、なんだかんだいって日本って大した国なんだと思うな。
辰年だからこそ龍から日本の歴史をひもといてみるのも興味深くて楽しそうだよ。
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2012年といえばマヤ予言終末の年でしたっけ?
なんかさ、去年とか一昨年に映画とかでもさんざん煽っちゃったせいで、
いざ2012年になってみると「あれ? まだ2012年になってなかったんだっけ?」
なんて拍子抜けしてる人もいたりして。
でさ、2012年の予言ってたぶん外れるよね。
だってさ、なぜなら次の終末予言が2020年に控えているんだから。
「次の」って、なにそれって思うけど、「インド暦によると2020年3月20日が
人類の危機の日であり、マヤ暦も計算し直すとこの日と一致する」んだってさ。
しかも、2020年が外れても、さらに2030年滅亡説が控えているからね。
(こっちは聖徳太子の予言なんだそうだ)
終末思想というものは世界が続く限り尽きぬもの。
しかし、そんなものに惑わされず、地に足をつけて一歩一歩しっかり生活していきましょう。
今の日本、それが一番大切なことだと思います。