スカラベって知ってる?
いやいや、実は私もスカラベって初めて知ったんだけどね。
話は飛んじゃうんだけれど、6月まで大阪でツタンカーメン展をやっているんだってね。
新聞にもドーンと広告が出ていて、8月には東京にも来るらしい。
そのツタンカーメン展に行きたい行きたいとカミさんがうるさくて。
そうウチのカミさん、古代エジプト大好き人間なんですよ。
もう語りだしたら止まらないくらい。
若かりし頃はヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)教室にまで行っていたそうで、
それなりに読めもするらしい。
そのカミさんがツタンカーメンはなんたらかんたらとしゃべっている中に、
スカラベっていう単語がちょくちょく出てくるんだ。
それで、スカラベってナニカナ? って思った次第。
カミさんがいうにはツタンカーメンといえば黄金のマスクが有名だけれど、
他にも副葬品として黄金の首飾りというのもあるそう。
もちろん首飾りといっても副葬品としていくつもあるんだけれど、
そのなかのひとつ、その中心にはめ込まれているものがスカラベというんだそうだ。
※画像はウィキペディアより
この首飾りの中心、メスのカブトムシみたいな彫り物。
これがスカラベ。
古代エジプト語ではケペルとかケプリとか発音するそう。
だけれど、これ、フンコロガシなんだよね。
※画像はウィキペディアより
あーそう、フンコロガシかあ、なんて思ったんだけど、古代エジプトでは
「再生と復活の象徴」である聖なる虫なんだそうで、太陽神ケプリと同一視されていたんだそうだ。
たぶん東からのぼり西に沈む太陽をスカラベが転がして移動させていたと考えていたんだろうね。
壁画にもたくさん描かれているから、本当に神聖視されていたんだと思う。
※画像はウィキペディアより
さて、ここからが本題。
この首飾りのスカラベ、以前はカルセドニーで作られていると考えられていた。
ところが、最近の研究でカルセドニーではなく天然ガラスで
出来ていることが確認されたのだ。
天然ガラスとなれば、それがどこで産出したものなのかが問題になる。
調査団が調べた結果、現在のエジプトの西南。リビアとの国境近くの
リビア砂漠にそれが広範囲にわたり大量に存在している場所が見つかった。
分析の結果、それがスカラベとまったく同じものだとわかり、その産地が特定された。
※画像はウィキペディアより
古い文献によると、この砂漠のガラスは10世紀には知られてはいたのだけれど、
研究が始まったのが1998年。
それから調査団が編成されているのだから、この砂漠のガラスの存在が
ハッキリ確認されたのは21世紀に入ってからということになる。
これが、現在、非常に人気の高いリビアングラスなのだ。
※画像はウィキペディアより
意外だけれど、このリビアングラス、市場に出始めてようやく10年。
それまではリビアングラスという名称もなかった。
ところが、ところがところがっ、大きな問題がひとつだけ残されたのだ。
それは……
リビアングラスの産地はわかったさ。
年代測定で生成時期が3000万年前だってこともわかったさ。
でもさ、じゃあ、どうやって出来たんだよ。
ってことなのである。
これが当時、まったくわからなかった。
(あ、当時といっても、わずか10年前だからね)
天然ガラスというものは火山活動によって流れ出したマグマが
海水などで急速に冷やされて作られるもの。
そして、それらの特徴として、どれもみな色が黒いということがある。
さらに、温度も関係している。
マグマの温度は約1100℃。当然、天然ガラスはそれ以下の温度で生成されている。
このような天然ガラスは世界中のいたるところにある。
にもかかわらず、リビアングラスはこれらの天然ガラスとは根本的に異なっているのだ。
色は黄緑から黄色。
生成温度も約1800℃だということがわかっている。
これでは火山の噴火が原因で作られるはずの天然ガラスにまったく当てはまらない。
いったいどうやってリビアングラスは作られたのか。
これらの矛盾をクリアして天然ガラスが作られる原因は何か。
それはもう、ひとつしか考えられない。
隕石の衝突である。
それならば瞬間的に地表の温度は3000℃にもなるらしい。
大地を溶かし地表をガラス化させるには十分すぎる温度だ。
しかもリビアングラスには、地表にはほとんど存在せず、
隕石によってしか運ばれないというイリジウムやオスミウムなどの
元素が多量に含まれていると文献に書いてあった。
状況証拠はすべて隕石の衝突を示しているとしか考えられない。
現在、隕石衝突は確定されてはいないけれど、ほぼ間違いないだろうとされている。
さらに、その衝突も単なる衝突ではなく、数百メートルもある小惑星が
地表の数キロ上空で爆発した結果だと考えられている。
この衝突の仕方だとクレーターができないかわりに高温の
衝撃波による被害が甚大なものになるらしい。
隕石由来の天然ガラスの総称はテクタイト。
そのなかでモルダバイトだけが古くから知られ固有の名前がついていた。
そして今、リビアングラスがそれに続き固有の名称を得た。
リビアングラスのモルダバイトに対する利点はその大きさ。
どんなに大きくても、消しゴムくらいのサイズしかないモルダバイト。
それに比べリビアングラスは両手でないと持てないくらい大きなものもたくさんある。
今はまだ砂漠で拾ってきたそのままの状態で売られているけれど、
これからはスカラベのような彫刻や置物などがどんどん市場に出回ってくるにちがいない。
ここ数年でいきなり人気が出てきたリビアングラス。
その由来が古代エジプトにあることを知る人は古代エジプトマニア以外ほとんどいない。
そしてその生成が隕石起源であることもまた、ほとんど知られていないのだ。