エピドートとペリドットは似ている!
何が。
名前が!!
私は石に興味を持ち始めの頃、このふたつの区別がつかなかった。
エピドートをエピドットだと思っていたし、ペリドットをペリドートだとヘーキでいっていた。
リチア輝石をリシア輝石といったりもするように、ドートとドットは発音の違いでしかないと思っていた。
エピとペリが頭から違うじゃないかといわれてもしかたがないけれど、そのころの私はドートとドットばかりが気になって、どっちがエピでどっちがペリかまったく憶えられなかったのだ。
私のように「似ている!」と思っている人って、結構いるんじゃないのだろうか。
そんなわけでエピドート(緑簾石:りょくれんせき)です。
ペリドット(橄欖石:かんらんせき)についてはここまで。お疲れさまでした。
それにしても日本名で書くとまったく別物だってわかるね。
これなら間違えないし、さらに「簾」がつく石は同じグループの仲間だってのもわかる。
さすが日本語、漢字って素晴らしい!
といいつつ、初めは緑簾石も橄欖石も読めなかったんだけど。
※画像はウィキペディアより
さて、鉱物としてのエピドートは日本名で「簾(すだれ)」の文字がつくように、その結晶に特徴がある。
条線というには彫りの深すぎる線が結晶の「縦方向」に何本も真っ直ぐに入り、まるで簾のように見える。そして主成分のひとつである鉄によって深い緑に発色している。
だから緑簾石。見たまんま、そのまんまの名前。
中には一本の細長い結晶が何本も平行連晶しているんじゃないかと思うくらいのものもある。
でも実際には連晶しているように見えるだけで連晶していない。あくまでもそう見えるというだけでひとつの結晶なのだ。
ところがこの結晶、鉱物的には重要なのだけれど見た目には地味な、でも「へー」と思ってしまうような特徴がもうひとつある。
※画像はウィキペディアより
実はこの写真、結晶的には横倒しなのだ。
普通、結晶って縦長なら縦方向に成長するものじゃないですか。
でも、エピドートは横方向に成長するんですよ。
だから、縦長じゃなくて横長の結晶なんです。
彫りの深い条線も水晶と同じ横に入っているってことになるのかな。
何行か上に「縦方向」とカッコに入れて書いたのはそのため。
※画像はウィキペディアより
正しくはこう見るのが正解でしょう。
19世紀にはスイスでものすごくたくさん産出し宝飾品にも加工されたエピドート。もちろん現在も産出はするのだけれど、その一帯が保護地に指定されてしまっているためすでに採掘はされていない。
しかし、基本的には世界中で産出する石だから、供給不足になることはこれからもないだろう。
ところで、エピドートで出来ているとってもおもしろい石があるのをご存じかな。
出来ているというか含んでいるというか、入っているという感じなんだけど、日本にとてもゆかりのある石。
長野県の武石村(たけしむら:現上田市)というところでしか見つかっていない石。
その名は「やきもち石」。
武石村にはこぶし大のまん丸い石がたくさん落ちていて、それは火山の噴火が原因で出来た石なのだけれど、それを半分に割ってみると中は空洞でそこに緑色のアンコが入っていた。
その緑のアンコこそがエピドート。
この写真は長野に住む石友が採集したやきもち石。
白い結晶は水晶。
真ん丸のやきもち石は過去にはたくさんあったらしいのだけれど、現在はこれが精一杯なんだそう。
それにしても長野県なんだから、やきもち石よりも「おやき石」の方がしっくりくるような気もするけどね。
それではおしまいに、みんな仲間の「簾」のつく有名どころの紹介です。
灰簾石(かいれんせき)
青くなったらゾイサイト。さらにキレイになるとタンザナイト。
赤くなったらチューライト。
意外だけどタンザナイトとエピドートはお仲間なんですよ。
世界中のあちこちで産出するにも関わらず、古代の剣のような結晶に
育つのは我が国日本だけ。
しかも、日本ならどこでもというわけではなく、日本のさらにピンポイントの、
ある一か所だけでしか結晶にならない。
ダイオプサイド(透輝石:とうきせき)。
鮮やかな新緑から深い緑の色を持つこの石はビーズにも加工され、意外とメジャーな部類に入る鉱物。
さて、ここで重要なのは日本以外ではこんな結晶は育たないという事実。
なぜか、と訊かれても返答に困るけど、ネットで透輝石の結晶を探してみても
日本産以外でこの形を見つけることはできない。
ビーズとかになったりしている透輝石の原石は細かい結晶が塊として産出しているもの。
それを削りだしている。
だからビーズの多くはキレイな緑だけれども透明感のあまりない石って印象がある。
でも、ときおり大きめの結晶が含まれていることがあって、それがビーズになったりすると、
まるで違った石に見えるくらい透明度の高いものになる。
そして世界で唯一のその場所は岐阜県なのだ。
岐阜県関市。
旧洞戸村にある洞戸鉱山がそこ。
林道脇に流れる沢をゆっくり10分ほど遡るとそこに坑道が開いている。
(林道の脇にはこんな立て看板が。洞戸の下が消されているのは洞戸村が関市と合併したため)
もちろんその坑道に入るような危険なことはしない。
坑道入り口付近の土をフルイに入れ、沢でフルイがけすればその中に
キラッと光る緑の剣が見つかるのだ。
ほとんど水はないけれど、いちおう沢。ここから沢が始まっているところ。
この右斜め上あたりに坑道が口を開けていて、斜面の土の中に透輝石が隠れている。
こんな感じでフルイがけ。
けっこう見つかる。
実はまだ2回しか行ったことがないんだけれど、クラスターも見つけられたりしてかなり楽しいところだよ。
ところで、以前にこの透輝石になぜ「透」という字が使われているのか。
わざわざ強調しなければならない理由でもあるのだろうかと思い調べてみたことがある。
すると、透輝石とほとんど成分が違わない、日本全国から産出する
灰鉄輝石(かいてつきせき:ヘデンバージャイト)という石があることが判った。
透輝石はカルシウムとマグネシウムを主成分としているのだけれど、
そのうちのマグネシウムが徐々に抜けて鉄に置き換わっていくと灰鉄輝石になる。
このふたつの石はグラデーションのように移り変わっていくため「ここまで」「ここから」
といった明確な線を引くことができない。
写真でも判るとおり、似ているのは色だけで形もまるで違うし光も通らない。
それでも成分が非常に似ていることから当初は同じ石に分類されていた可能性がある。
しかし、明らかに見た目の違うこの石に「違っているのは透明なところだ」とばかりに、
「透」を強調した名前をつけたのが透輝石だったのだ。
もちろん私の想像だけれど、きっとそうに違いないのだ。
灰鉄輝石という名前が出たところで、何か気になることはないかな?
透輝石と灰鉄輝石。
輝石って何? っていうこと。
鉱物の名前って、とくに日本語では主成分が違っても分子の並びが同じなら同じ種類として
共通の名前がつけられる。
「透」とか「灰鉄」とかがファーストネームで輝石がファミリーネームってとこかな。
だから、けして輝いている石という意味ではなく、その分子の並びを持った石を
輝石と呼びましょうとしただけ。
でも、なぜそれが輝石という呼び名になったのか。
んー、たぶん、最初は輝いて見えたんじゃないのかな。
というわけで、輝石グループの石は他にもいろいろあるのです。
・ヒスイ輝石(ジェダイト)
・オンファス輝石(オンファサイト)
・コスモクロア輝石(コスモクロア)
・リチア輝石(スポデューメン:クンツァイト)
・普通輝石(ふつうきせき:オージャイト)
・頑火輝石(がんかきせき:エンスタタイト)
これらはけっこう有名どころかな。
ちなみに、バラ輝石(ロードナイト)は輝石とついていますが、
研究の結果、なんだかちょっと違っていたようで、輝石グループではないそうです。
でも、今さら名前を変えられないということでバラ輝石のまま。どうぞこれは憶えておいてください。
それではお終いに、この透輝石、本来の色は無色。
緑はわずかに含まれるクロムによるもの。
だけど、さらにクロムが増え鮮やかな緑になっているものをとくにクロム透輝石、
またはクロムダイオプサイドと呼んでいる。
※画像はウィキペディアより
透輝石とクロム透輝石
ちょっと暗めな緑の透輝石。鮮やかな新緑のクロム透輝石。
これは好みの分かれるところかもしれないな。
さてみなさんはどちらの透輝石がお好みですか?