アクセサリーに使われている貴金属でもっとも多いのは何?
金! いえいえ。
プラチナ! いえいえ、高すぎ。
それは銀(シルバー)なのです。
って、みなさんわかってましたよね。
※画像はウィキペディアより
えー、前回に引き続き貴金属なんですけれど、銀は金に比べて非常に安い。
金の1グラムあたり約4000円、プラチナの約5000円に対し、銀は1グラムあたり
約80円なんだから非常に安い。
安いということは使いやすいということ。
ジュエリーは石自体が高価だから枠にもお金をかけて何十万円にもできるけど、
アクセサリーが石を置いてけぼりにして、枠だけで高くなっちゃったら何だか変な感じだもんね。
誤解のないようにいっておきますが、鉄の価格は1グラムあたり約0.06円くらいですから、
銀はあきらかに貴金属です。
金とプラチナが高すぎなんです。
さて、銀といえば銀色。私、好きなんです、銀のあの色。
でも、一般的に銀色といわれて思い浮かべるあの銀色は本当の銀の色ではありません。
本当の銀の色はかなり白に近い。
じゃあ普段見ている銀色って何? って思うのだけれど、それは銀が空気中の酸素や
硫黄と反応して少しくすんだときの色。
写真は皇太子殿下ご成婚記念の5000円銀貨。
ずっとケースに入れていたから、まだ本当の色を残してはいると思うんだけど、どうだろう。
そう、銀の最大の特徴は貴金属でありながら、変色が激しいというところ。
それが銀の欠点なのではないだろうか。
でも、シルバーアクセサリーはどちらかというとすでに若干変色しているから落ち着いた
雰囲気になっているとも思っている。
それがイヤだからといって変色していない銀を買ってきたとしても、
一週間もすれば落ち着いた色に変化してしまう。
写真は江戸時代の一分銀。もう真っ黒。
すでに落ち着いた色になっているシルバーアクセサリーもちょっと気を抜いていると
どんどん黒くなっていくから注意が必要。
ちゃんと毎日磨かなくてはならないよ。
ただ現在では還元剤っていうものもあって一瞬で元に戻すこともできるけど、
落ち着いた銀色を通り越して真っ白になってしまい、
いまいち風情がないからあまり使いたくはないんだよね。
また銀には私たちの生活に密着したもうひとつの特徴がある。
銀イオンを使った消臭剤とか抗菌仕上げとかを見たことがあるでしょう。
銀にはバクテリアに対して非常に強い殺菌作用もあるのだ。
非常に強い殺菌作用とはいっても人間にはほとんど影響はないからそこは安心。
銀の特徴はこの殺菌作用と変色が最大の特徴だと思う。
もちろん金属だからとても軟らかくアクセサリーにするにはそのままでは不向き。
だから少し銅など他の金属を混ぜて強度を上げている。
当然その分純度が下がるから、金と同じように純度が刻印されている。
シルバーアクセサリーはほとんどSV925かな。
百分率でいうところの92.5パーセントのこと。
貴金属は百分率(パーセント)よりもさらに細かい千分率(パーミル)で純度を示すことが多い。
SV925は「純度925パーミルの銀」の意味。
ただ、SVはシルバーのSVなんだけど、これは国際的には認められていない。
だから社団法人日本ジュエリー協会では元素記号のAgを用いてAg925と
表すことを推奨しているそうだ。
金と違い銀は925しかないこともあって、私もほとんど気にしないのだけれど、
SV925の刻印はかならずどこかに刻まれている。
それを探してみるのもちょっとだけ楽しいよ。ルーペじゃなきゃ見えなかったりするし。
※画像はウィキペディアより
写真は自然銀。真っ黒。ひげ銀とも呼ばれている。
さて、話は変わって、銀を歴史的に見ると庶民の生活の中では金よりも
よっぽど銀が生活に根付いている。
中世ではコインなど各国で流通していた貨幣はそのほとんどが銀貨だった。
その銀で日本は非常に重要な役割を果たしている。
15世紀から17世紀、室町時代から江戸時代初期にかけて
世界で産出がもっとも多かったのが日本。
島根県の石見銀山から産出する銀は非常に品質もよく、何と世界中の銀の3分の1を占めていた。
当時はまだ石見(いわみ)という地名はなく佐摩(さま)と呼ばれていたため、
世界的には佐摩が変化しソーマ、ソーマ銀と呼ばれていた。
ヨーロッパに残る資料にもソーマ銀による交易が広くおこなわれていたと書かれており、
遠くスペインやポルトガルからもソーマ銀を求めて多くの
ヨーロッパ人が石見の地を訪れていたそうだ。
日本って明治維新によってようやく国際化されたように思っていたりしてません?
江戸時代は鎖国していたから、ぜんぜん外国との繋がりはなかったって。
ところがどっこい。
日本は室町時代にはすでにソーマ銀を通して世界と十分繋がっていたのだ。
信長や秀吉に代表される桃山文化が花開いたのも、このソーマ銀が世界経済の
基盤にあったからではないのだろうか。
ある意味、世界経済を牛耳っていたともいえるソーマ銀を産出していた
石見銀山が世界遺産に登録されたのは当然だと私は思っている。
写真は銀鉱石の淡紅銀鉱(たんこうぎんこう)
※鉱石については、第20回に載っています。
話をアクセサリーに戻しますよ。
アクセサリーに戻すといいつつ銀はアクセサリーというよりも、
銀のスプーン、銀のフォーク、銀のお皿とかの食器、銀食器の
イメージの方が強い人もいるんじゃないかな。
そう、中世の貴族や王族はみんな銀の食器を使っていた。
古くは古代ローマ帝国で使われ始め、徐々に貴族の間に広まっていった。
それ以降、銀食器は食器の最高級として不動の位置を占めている。
現在でも各国でおこなわれる、国賓を招いた晩餐会でも銀の食器が使われている。
でも、なぜ銀なんだろう。
金食器やプラチナ食器ではなぜダメなんだろう。
金だと料理よりも目立ってしまうからか?
それとも重すぎるからか? 確かに金やプラチナは銀より2倍近く重い。
これはやはり強い殺菌作用があるからなのではないだろうか。
中世の時代に冷蔵庫はなかった。何かの拍子に客人を食中毒にしてはいけない。
その気遣いから銀食器を使っていた、のだと私は思っていた。
しかし、それはとても浅はかな考えだった。真実はもっと深いところにあったのだ。
銀を食器に使っていたその本当の理由。
それは殺菌作用ではない銀のもうひとつの特徴。
「非常に変色しやすい」というところにこそあった。
銀がもっとも変色しやすいのは硫黄系化合物、ヒ素系化合物と接触したときだ。
硫黄系化合物、とくにヒ素系化合物は猛毒だ。
古代から中世においてもっとも多い殺人の方法は毒殺。
銀食器はそれら猛毒と反応し、変色することでいち早くその存在を教えてくれるのだ。
だからこそ中世において食器は銀でなくてはならなかったのだ。
しかし、銀は本当に変色しやすい。
変色した銀食器では本当に毒が盛られていても気がつかない。
銀食器は毎日しっかり磨かなければすぐに変色してしまう。
しかも強く磨くとキズだらけになる。
晩餐会を開くようなところは「銀のお皿5枚セット」というレベルではないだろう。
きっと100枚も200枚も普通にあるはず。
だから毎日毎日、たとえその日に使わなくても、お皿やスプーンを磨くためだけの
係りが必ずいるに違いない。
いなければおかしい。
銀製品とはそういうものなのだ。
銀のスプーンは欲しいけれど磨くのはめんどくさい、というひと。
変色しない銀製品が欲しい、と思っているひと。
そんなことでは銀の本当の姿はわからないのですよ。
どうです? 毎日やさしく磨いて中世貴族の気分を味わってみませんか?
あ、自分で磨いてたんじゃ、使用人の気分しか味わえないやね。