平成二十二年、新年明けましておめでとうございます。
2010年です。
本年がみなさまにとってステキな一年となりますようお祈り申し上げます。
さて、1月の誕生石といえばガーネット。
あの、コロッとした丸い12面体・24面体・36面体の結晶。
多くの人は結晶というと水晶のようなまっすぐ立ったものを想像しているから、丸いガーネットには誰もが必ず一度は驚く。
そのガーネット、第22・23回で一度紹介しているんだけど、そのときからすでに2年。何か新しい発見など進展はないのだろうか。
と、その前に、ちょっとおさらい。
ガーネットの語源はザクロの実を表すラテン語のグラナトゥム。それは洋の東西を問わず同じで日本名はそのまま石榴石(ざくろいし)。
それから重要なこととして、ガーネットという名称はけしてひとつの石を指しているのではないということ。
例外を除き大きく分けて6種類あるガーネットグループの総称だということを忘れてはいけない。
・アルマンディンガーネット(鉄礬石榴石:てつばんざくろいし)基本色:赤
・スペサルティンガーネット(満礬石榴石:まんばんざくろいし)基本色:赤
・パイロープガーネット(苦礬石榴石:くばんざくろいし)基本色:赤
・グロッシュラーガーネット(灰礬石榴石:かいばんざくろいし)基本色:無色
・アンドラダイトガーネット(灰鉄石榴石:かいてつざくろいし)基本色:緑
・ウバロバイトガーネット(灰クロム石榴石:かいクロムざくろいし)基本色:緑
礬:アルミニウム 満:マンガン 苦:マグネシウム 灰:カルシウム
一覧を書いてみました。日本名は主成分がそのまま名前になっている。わかりやすいんだけれどロマンチック度はイマイチかな。
ところで、「グリーンガーネットって特殊なガーネットなの?」って質問がよくあるんです。
ガーネットって基本的に赤いものって誰もが思っているんで、
どうしてもグリーンガーネットって特別な気がするんだよね。
でも、一覧を見てのとおりガーネットにはもともと赤と緑の2種類あるってこと。
あとは主成分の含有率によって赤が濃くなり過ぎて真っ黒になっちゃったり、淡いオレンジになったり。または目の覚めるようなアップルグリーンだったり地味な茶色だったり。
だから見た目の色の違いだけでたくさんの名前がついている。しかし正確に分類したら必ず上記6つのうちのいずれかにあてはまる。
有名なロードライトやボヘミアン、マンダリン、デマントイドなどもあくまで通称だってこと。
とくにここ数年、鉱物ファンを大いに賑わせたレインボーガーネット。
(※)世界で唯一、2004年に奈良県で発見された、一見、茶色いだけの、しかし光を当てると七色に光るガーネット。クラックやインクルージョンで七色に光るのではなく、初めから七色に光るような結晶構造を持っているガーネット。
これも正確にはアンドラダイトに分類される。
(※) 世界で唯一
以前メキシコでレインボーを示すガーネットが発見されていますが、すでに枯渇しており現在そこでの産出はまったくありません。
奈良県で発見されたレインボーガーネットはメキシコのそれに比べあまりにもレインボーが強かったために「スーパーレインボー」と呼ばれています。
まあ、おさらいとしてはこんなところかな。思い出した?
ところで、先だって名古屋のミネラルショーに行ったんですよ。
そこで、そのレインボーガーネットの発見者の方とお話しする機会がありまして、どういう状況で発見されたのかを訊いてみました。
いやね、新産地ってどんなふうに発見されるんだろうと思ってさ。
そこは奈良県のある山の登山道。ずっと以前から緑のアンドラダイトがあるってことで有名だった場所。
その人がそこへ採集に行ったとき、風に踊った木漏れ日が沢をはさんだ反対側の斜面をサーッと横切った。その瞬間、なんとその斜面がキラキラキラ~っと輝いたそうな。
ま、フツーは「おや?」っと思うよね。とりあえずその反対側の斜面に行ってみたところ、なんと足元が全部ガーネット。色を確認するために木漏れ日に照らしてみたところ突然七色に輝きだし絶句。
しばらくは一歩も動けなかったそうだ。
この話の最大のポイントは、もともとよく知られていた場所の、その反対側の斜面にとんでもないものがいたにもかかわらず、何十年、へたしたら何百年も誰も気がつかなかったってところだ。
この場所には私たちも採集に行ったのだけれど、ほぼ平坦な道を徒歩15分、沢をはさむといっても、その沢には一滴の水も流れていない。サンダルで来ている女性もいたくらい簡単に行けるところ。
すでにわかっていることはとても簡単に見える。しかし、それに気がつくまでは無限大の難しさなのだ。
「気づく」ということがどんなに重要で偉大なことなのか、あらためて考えさせられる話だった。
その産地は発見からわずか半年で自治体により採集禁止になった。そりゃそうだ、世界でただ1ヶ所の産地なのだから町をあげて保護するべきだ。
しかし、レインボーガーネットを発見したこの人たちはさらなる新産地を求めた。
川を渡り、山を越え、藪をかき分け、クマと対面し、スズメバチに追われた。
そして昨年、2009年。ついに進展があった。
彼らが新しいレインボーガーネットを見つけたのだ。
それはこれまでとはあきらかに違うレインボーだった。
それは「ネオンレインボー」と名付けられ、さっそく名古屋ショーにお目見えしていた。
そのままならば黒茶っぽい地味なガーネットなのだけれど、光を当てた瞬間、結晶面がブルーに輝いた。
このときに私も初めて見たのだが、それはなんとも妖しくブルーに輝いていた。
←この青に光る
これを見た瞬間、なんとしても採集に行かなければならないと思った。
しかし、その場所は徒歩2時間。しかも急な斜面を登り続けなければたどり着かないところ。とても根性無しの私たちが行けるようなところではない。
「案内してあげる」というありがたいお言葉をいただいたにもかかわらず、「行けません」と答えるまでに1秒もかからなかった。
なるほど、確かにこのネオンレインボー、いちおう値段は付いていたのだけれど、「おいおい、絶対売る気ないだろう」という値段だったのはそういうわけか。
2005年から2009年までガーネットの進展はこのネオンレインボーの発見だろう。ただでさえ世界で唯一の産地だった奈良県にまた新たな産地が加わったのだ。
新産地を求めて山中を歩き回ることはかなり困難なことだけれど、ハイキングやドライブで出かける山にもきっとステキな石たちが隠れているに違いない。
それに出会うためにはちょっとした「気づき」が必要なだけだ。気づくためには、普段通り過ぎているだけのところに少しだけ注意を向けてみればいい。
日本はすごい。私たちの足元にはまだ誰にも気づかれていない石たちが確実に眠っている。
------------------------------------------------------
巷では2012年という映画が話題になっておりますが、それよりも前の今年2010年といえば、木星が第二の太陽ルシファーとなりモノリスが人類の進化を……。
なんて、これは映画「2001年宇宙の旅」の続編「2010年」の一場面であります。
そういえば、ここ最近また終末思想がはやってきているみたいですが、みなさん踊らされちゃいけませんよ。
1999年だって何もなかったでしょう。
あのときは30年も前置きがあったんですから私なんかドキドキしていました。でも結果として何もなし。ヒョーシ抜けって感じでした。
それにノストラダムスの予言は3797年まで続いているんですけど、当時はそういうこと一言もいわなかったでしょ。
2012年だって、マヤのカレンダーがそこで終わっていることが理由なんだけれど、それっていってみれば1年のカレンダーが12月31日で終わっているようなもの。で、当時のマヤ人があまりにも遠い未来の日付をつけてもしかたがないと思い、いったん区切りをつけただけのこと。
カレンダーの終わりであって人類の終わりじゃない。そこにフォトンベルトが乗っかっちゃったってところでしょうか。
それにしても終末思想を吹聴している人たちって絶対ふざけてますよね。
その証拠にこの後2020年・2030年・2060年と滅亡説が控えているんですってよ。
「2001年宇宙の旅」が制作されたのは1968年。「2010年」は1984年。
過去において「未来」とされていたこれらの年代を、現在の私たちは次々と通過していると思うと、なんだか感慨深いというか妙な気分であります。