12月の誕生石といえばラピスラズリとトルコ石(ターコイズ)。
※画像はウィキペディアより
ラピスは第11回で早々に取りあげているんだけど、トルコ石は第58回にして今回が初めてです。
※画像はウィキペディアより
そう、トルコ石。
なぜ、今になってようやくなのか。
はい、そうです。
実はこれまでトルコ石を避けてましたぁー!
トルコ石ファンの方、申し訳ない!!
なぜ、避けていたのか。
それはトルコ石にはイミテーションがあまりにも多く、「こんなのはダメ」「あんなのはダメ」っていうばかりの、とってもネガティブな内容になってしまうと思っていたからなのです。
でも、トルコ石はとってもキレイ。
しかもすごく歴史が古い。
アステカ文明やマヤ文明などの古代遺跡からも発掘されているし、エジプトでは少なくとも紀元前3000年の第一王朝以前にはすでに装飾品として使われていた。
さらに紀元前5000年のメソポタミア文明(現イラク)の遺跡からもビーズが見つかっている。
ってことは、7000年以上の歴史があるってことだ。
※画像はウィキペディアより
※画像はウィキペディアより
こんなすばらしい石をいつまでも避けていてはいけない。
ここはひとつ、イミテーションのことは考えず「トルコ石」についてだけ考えてみるのが正解だなっと思ったしだいなのであります。
(イミテーションについて知りたい人は「トルコ石 イミテーション」で検索してみてね)
さて、トルコ石といえばどんな石を思い浮かべるかな。
まず色はターコイズブルーと呼ばれる澄んだ青空のような水色にクモの巣のような黒い模様が入っている石。
一般的にはこの印象だろうな。
この水色、濃ければ濃いほど高級とされている。
もちろん天然物だから同じ水色でもムラがあり、少し薄い水色がまだらのように入っている。
この水色は主成分である銅の色なんだけど、不純物として鉄が入ってくるとだんだん緑っぽくなってくる。
緑がかったトルコ石はヒマラヤの一部地方で珍重されているんだけど、世界基準でいくと水色の方がより価値が高いとされている。
それから、クモの巣のような黒い模様。これは褐鉄鉱(かってっこう:リモナイト)でできていて「スパイダーウエーブ」とか「メイトリックス」とか「ネット」って呼ばれている。私はスパイダーウエーブがカッコイイと思うんだけど、正式名称ってないみたい。
現在、最も高級とされているトルコ石はアメリカアリゾナ州スリーピングビューティー鉱山産のもので、鮮やかな水色に細かいスパイダーウエーブがふわっと被っている感じのもの。
これが最高級とされているんだけれど、それはあくまでアメリカでのこと。ヨーロッパは逆でスパイダーウエーブのない方が好まれていたりする。
みなさんはどっちが好みかな。
続いてちょっと鉱物的な特徴になるんだけど、トルコ石は銅を採掘する銅鉱床から二次鉱物(にじこうぶつ)として産出する。
二次鉱物?
これまで紹介したことのない言葉なんだけど、トルコ石に限らずあるいくつかの鉱物にはたまに「二次鉱物」という説明がついている。
だから二次鉱物ってなに? って思っていた人も多いんじゃないかな。
とりあえず、二次鉱物があるってことは、その前に一次鉱物があるってことで、よく見かける水晶やトルマリンなどほとんどの鉱物は一次鉱物。
そのなかに黄鉄鉱(おうてっこう:パイライト)や黄銅鉱(おうどうこう:チャルコパイライト)などの金属鉱物がある。この金属鉱物が長い年月、雨風(ホントはもっとヤヤコシイ)にさらされるとその成分が化学変化を起こし違う性質の鉱物になる。これが二次鉱物。
身近なところでいうと「鉄」かな。
鉄を野ざらしにしておくと錆びちゃうでしょ。その錆こそが鉄の二次鉱物なわけ。
錆のなかにはちゃんと鉄が含まれているから、そこから鉄を精錬することが出来る。
鉄鉱石はほとんどが錆の状態で採掘されている。純粋な鉄なんて自然界にはほとんど存在していない。
他に有名な二次鉱物というと孔雀石(くじゃくいし:マラカイト)がある。これもトルコ石と同じ銅の二次鉱物。
鉄と違って銅はキレイな二次鉱物を作りやすいんだと思う。
マラカイトは日本でもけっこうあちこちで採集できるんだけど、日本産のトルコ石については、唯一1994年に栃木県で見つかったという話があるだけで、他は聞いたことがない。
考えてみれば、産出国はどこも砂漠の多い地域だから、高温多湿の日本ではなかなか難しいのかもしれない。
ところで、性質が変わっても二次鉱物とは呼ばない石もある。
例えば第29回で紹介した「桜石(さくらいし)」。この石はアイオライトがその形だけを残して溶けてしまい、そこに雲母が入り込んで置き換わった石。だからアイオライトの成分は何も残っていない。
こういうのは仮晶(かしょう)といって二次鉱物ではないからゴッチャにしないようにね。
そうそう、まだ結晶について書いてなかった。
トルコ石は目に見えない非常に細かい結晶の塊でできいるから決まった形がない。
でも、希にではあるけれど肉眼サイズの結晶が発見されている。
私もまだ写真でしか見たことがないのだけれど、その結晶はそれはもう信じられないほど美しかった。通常目にするトルコ石とはまるで違う。
色ムラのない均一のターコイズブルー。しかも光が通る。
想像してみてほしい。美しくないわけがない。
しかし、しかしなのである。
その結晶は最大でも1ミリの大きさしかなかった。
んー、誰か人工ターコイズとして大きな結晶を作ってくれないかな。
天然物じゃなくても、それならばかなり嬉しいかも。
そういえば最近、スパイダーウエブのあるトルコ石が店頭から減ってきているような気がする。
ヨーロッパタイプに世間の好みが移ってきたのだろうか。
次はきっとヒマラヤタイプの緑のトルコ石が人気になるかもね。
緑柱石(りょくちゅうせき)ですよ! 緑柱石。
※画像はウィキペディアより
第18回(すぐに見ちゃヤだよ)でちょっとだけ紹介しているんだけど、どんな石だったか憶えてる?
結晶が緑色をした柱状の石ってことで、見た目そのまんまが日本名になっている。
見た目そのまんまが名前になっているってことは、ものすごく古くから知られていた証拠。
古代エジプト・プトレマイオス朝の女王様が愛し抜いていたといわれているくらいだから、
宝石としてはダイヤモンドやルビーよりよっぽど古い。世界最古の宝石、それが緑柱石なのだ。
で、その女王様とは誰なのか。
そう、いわずと知れたクレオパトラ。古代エジプト最後の女王クレオパトラ7世。
クレオパトラといえばエメラルド、エメラルドといえばクレオパトラなのです。
というわけで緑柱石とはエメラルドのこと。エメラルドの結晶を見て
そのままつけた名前が緑柱石だったのです。
※画像はウィキペディアより
エメラルドはクレオパトラが愛して愛して愛し抜いたといわれている宝石。
エメラルドを採掘するために自分専用の鉱山を持っていたという伝説も
あるくらいクレオパトラとは切っても切り離せない。
だからエメラルドは宝石の女王と呼ばれているんだね。
しかも、伝説は伝説でなかった。
そのクレオパトラ鉱山跡が数年前に見つかったのです。
今では地中海沿岸の遺跡から発見されるエメラルドのほとんどが
この鉱山から採掘されたものと考えられています。
世界三大美女のひとりクレオパトラ。
エメラルドを身につければ、また一歩、世界三大美女に近づけるかも。
さて、そのエメラルド。現在もっとも美しいといわれているものはコロンビアのムゾー鉱山から採掘されたもの。
ムゾー イコール 一級品 、一級品 イコール ムゾー。
これがもう固定されてしまっている。
コロンビア産ではなく「コロンビアのムゾー鉱山産」であることがポイント。
ところで、ダイヤモンドには世界的なシンジケートが存在していて、そのせいで価格が安定しているんだけど、コロンビア産のエメラルドにもそれが存在している。
もちろんコロンビアですからね。エメラルドと命どっちが大切? っていうシンジケートらしいですけど。
そのエメラルドシンジケートを描いた興味深い映画があるんですよ。
エメラルドカウボーイ 機会があったらぜひ。 お勧めです。
話を戻して。
エメラルドは鉱物的にはベリルという石のグループに属している。
無色透明、六方晶系に分類される六角柱状の結晶。
科学的なところで、原子番号4番のベリリウムはこのベリルから初めて発見されたことでその名前がついた。
「スイヘーリーベ」の「ベ」のところね。
※画像はウィキペディアより
本来、無色のベリルにクロム、もしくはバナジウムが入り込み緑に発色したものがエメラルド。
※画像はウィキペディアより
このエメラルド独特の緑にはホントにウットリする。
エメラルドは買おうと思ったら本当に高い。
ヘタをするとダイヤモンドなんて目じゃないくらい高いから、なかなか宝石として買うことなんてできない。
でも、原石ならばグッと身近になる。もちろん高いことは高いけど、宝石に比べれば高品質のものが遙かに安く手に入る。
石好きならば原石でもつこともアリだと思うよ。
「んー、これがカットされたらン百万になるのか」なんて思うのは野暮だけどね。思っちゃうけどね。
それからエメラルドはあまりの美しさから合成品もたくさん造られている。
いくらエメラルドとはいっても合成品はちょっと遠慮したいよね。
そこで、天然と合成の簡単な見分け方を知っておくといいよ。
最も簡単な見分け方として、合成品にはひとつ特徴がある。
それは、キレイ過ぎるということ。
合成品は合成なんだからきわめて純粋なエメラルド。
そこが見分けるポイント。
天然物は天然であるがゆえに、クラックや内包物などインクルージョンがたくさん入っている。
他の石に比べてもエメラルドはとくに多い。
それが天然の証。
この写真はカミさんの母上のエメラルドリング。ちょっと光の関係で色が飛んじゃっているけど、
たくさんのクラックが見えると思う。
もちろん購入したときはこんなにクラックはなかったって母上はいっている。
でもそれはクラックを隠したり結晶の強度を高めるために、樹脂やオイルを
しみ込ませる浸含処理(しんがんしょり)が施されていたから。
すでに何十年も経っているためそれらが蒸発してボロボロっていえば
ボロボロなんだけど、エメラルドはこのくらいのキズがあって当たり前と思っていてもいいかもしれない。
でも、はじめからこんなにキズだらけじゃ誰も買ってくれないよね。
それではエメラルドにとっても不幸なことこの上ない。
だから今でも宝石店で売られているエメラルドは必ず浸含処理というお化粧が施されている。
ある意味、エメラルドの素顔は原石でしか見られないってことかな。
エメラルドも石によって色合いが全部違う。
たくさんの石を見てぜひ自分専用のエメラルドを見つけてください。
古代ローマでは、目が疲れたりするとエメラルドをじっと見つめて疲れを癒していたそうだ。
自然の森や緑を見ると誰もが心癒されるように、緑にはそのような力があるのだろう。
エメラルドにもきっと同じ力があるにちがいない。
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エメラルド以外のベリルは次のとおり。
石選びの参考にしてね。
・モルガナイト
ピンクのベリル。色の原因はマンガン。
そのパステル系の色がとってもかわいい。
※画像はウィキペディアより
・へリオドール
黄色のベリル。色の原因は鉄。
黄色が濃くなるとゴールデンベリルと呼び名が変わる。
※画像はウィキペディアより
・アクアマリン
水色のベリル。色の原因は鉄。
エメラルドと並び宝石としてカットされている。
発色原因がヘリオドールと同じ鉄なのに、なぜ黄色になったり水色になったりするのだろう。
・レッドベリル
真っ赤なベリル。色の原因はマンガン。
一時期、レッドエメラルドとして宝石店に並んでいたことがある。
でもレッドエメラルドじゃねえ、言葉的に「赤緑」だからねえ。レッドベリルで正解。
ビクスバイトと呼ばれることもあるけれど、レッドベリルの方が一般的。
※画像はウィキペディアより
・ゴシュナイト
無色のベリル。
無色ですら名前がついている。だからベリルという名前がなかなかメジャーにならないんだ。
※画像はウィキペディアより
エメラルドをはじめ、モルガナイト、ヘリオドール、アクアマリン、レッドベリル、ゴシュナイトはすべて宝石名。だから正式名称ではない。
正式名称はすべてベリル。日本では緑柱石。