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地球のかけら

【第33回】レインボーガーネット

2008年7月 1日

採集に行くとたいていどこの産地でもお仲間に出会う。たいていは石の話で盛り上がるんだけど、採集歴20年・30年という大先輩に会ったときはたいへんだ。
まあ、「昔は良かった」という話をとうとうと聞かされる訳なんだけど、どうにも信じられないような内容で大げさに話しているとしか思えないことが多い。

「昔、○○山は足元一面水晶だったよ。△△谷はガーネットだらけだったね」
「いくらでもあったよ。探すなんてことしなくてよかったんだから」
「いかに他人よりいいものを見つけるかだけが問題だったね」
「今はさみしいね。探さないと見つからないんだから」

そりゃ、鉱物採集が今よりさらにマイナーだった頃は、誰も採りになんて来ていないんだからたくさんあったのは間違いないだろうけど、さすがにこんな話は信じられない。きっと、何十年も経つうちに思い出が美化しただけだろう。
「へー」とか「ほー」とか相づちを打ちながらも「話半分以下」と思って聞いていた。

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33-reinbow2.jpgのサムネール画像

 

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上の写真はアンドラダイトガーネット(灰鉄石榴石:かいてつざくろいし)の一種、レインボーガーネット。

通常、水晶とか天然石のレインボーというと、結晶に入ったクラックで光が屈折し七色に見える現象のことをいうよね。
でも、このガーネットは結晶自体がレインボーを作り出す構造になっている。
なんでも、目に見えないくらいの薄い層が幾重にも重なってできているらしく、それらの層に光が当たることにより七色の光を放つんだそうだ。
だから、地層と同じで地表からは地層が見えないから、結晶面がハッキリしているものは、いまいちレインボーがわからない。
反対に割れて形が悪くなったものほど、地層がむき出しになっているのと同じってことでキレイなレインボーがでる。
結晶の形が整っていて、さらにレインボーがバッチリ出るのが最高なのだけど、残念ながらそのようなものはない。
結晶好きの私としては「あちらを立てればこちらが立たず」という、なかなかじれったい石なのだ。 

33-reinbow a.jpg

 

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それにしても、レインボーガーネットを採集したときのことは、まるで昨日のことのように憶えている。
なぜなら、その場に行っただけでこれほど感動した産地は、後にも先にもここ以外お目にかかったことがなかったからだ。


産地が発見されてまだ半年ほどしか経っていなかった頃、多くの採集家が噂だけで、その場所を特定できていなかったとき。
運良くその場所を知ることができた私たちは、いても立ってもいられず車を走らせた。

奈良県天川村、とある山の登山道入り口。
吊り橋を渡り深い森が続く登山道に入る。またげる程度の小川を3つほど越えたところで道は少し大きめの水のない沢にでた。
道はそれに沿ってさらに奥へと続いており、道なりに進もうとしたそのとき、沢をはさんだ反対側の斜面がキラキラッと輝いた。 

私たちは顔を見合わせ、その斜面に駆け寄った。
そして、ついに信じられない光景を目の当たりにしたのだった。

「え?! 何これ……」

ガーネットが斜面を覆い尽くしていた。
「うそ……」
震える両手で水をすくうように足元の土をすくい上げてみる。そこにはガーネットが数え切れないほど含まれていた。

それらを木漏れ日にかざす。

でた! レインボーだ!

七色を発したそれは紛れもなくレインボーガーネットだった。そう、私たちはレインボーガーネットの上に立っていた。 

再び風が吹き、木立が揺れ木漏れ日が斜面を移動する。

キラキラキラキラキラ……

それに合わせて斜面が輝いた。

緑に覆われた暗い森の中、それはまるで地上に降りた天の川だった。

「探す必要なんてなかった……」
こういうことか。これが大先輩たちがさんざんいっていた「昔は良かった」なのか。

「他人よりいいものを……」
そうだ、ここに落ちているのはどれも小指の爪の大きさもない。
ここからが本番だ。
親指の爪以上のガーネットを見つけたい。さらに群晶があったらもっと嬉しい。

近くを流れる川のせせらぎと鳥の声、そしてサクサクというガーネットを探す私たちの音だけが小さくいつまでも森の中にこだましていた。

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33-reinbow y.jpg

 

33-reinbow z.jpg

 


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文中にある「とある山」とは行者還岳(ぎょうじゃがえりだけ)のことです。
この産地は私たちが訪れた数ヶ月後に採集禁止になりました。
しかし、この斜面は登山道のすぐ脇にあります。採集はできないけれどトレッキングついでに産地を見てみるのもいいと思いますよ。健康的だし。
それに、けっして大変な場所じゃないんですよ。しかも車を降りてから15分も歩いてない。
 

33-shamen.jpg


 

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