9月の誕生石はサファイアである。そしてカミさんは9月生まれである。
世の女性の多くが自分の誕生石を気にするように、カミさんも自分の誕生石が大好きだ。
ところがそのサファイアをカミさんは持っていない。
なにやら以前にカシミール・サファイア(コーンフラワー・ブルー・サファイアともいう)を見たとかで、その色に魅了されてしまったためらしい。
大粒のものはとても買える値段ではないらしいが、小さなものならと探しているうちに、結局買えないまま今日に至っている。
ところで、サファイアは鉱物的にいうとコランダムという石になる。そのコランダム、赤くなったら「ルビー」そしてそれ以外を「サファイア」と呼んでいる。
ダイヤモンドに次ぐ宝石である「ルビー」と「サファイア」は、実は同じ石の色違いだったのだ。
そのサファイア、とにかく硬い。どのくらい硬いかというとダイヤモンドの次に硬い。モース硬度でいうとダイヤモンドが10でサファイアが9。
水晶やエメラルドなど多くの石が7前後だから、サファイアがいかに硬いかがわかる。
余談だけど、「硬い」というのはあくまでも表面の「引っ掻きキズのつきにくさ」のこと。けして「割れにくさ」を表しているわけじゃない。
もっとも硬いダイヤモンドでも強い衝撃を与えると木っ端みじんになってしまう。宝石はどんな石も基本的に「もろい」ものだということを知っておこう。
さて、そのサファイアは日本で採集できるものなのか。
買える買えないにかかわらず、鉱物採集家ならば日本産のサファイアはどうしても欲しいところ。
インターネットや本でいろいろ調べてみたところ、どうやら何か所かでサファイアが見つかっていることがわかった。
しかし、さすがサファイアである。その産地の多くが天然記念物に指定されており、見ることはできても採集することはできない。
どこかに採集できるポイントはないのか。さらに調べてみると奈良県とそしてなんと我が富山県に採集できる産地があったのだ。
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富山県産サファイア
富山県内のとある山の中。ようやく探し当てた産地は今にもクマが顔を出しそうな鬱蒼とした森の斜面の一部。
岩石の中に含まれた状態でサファイアの結晶があった。
丸く見えているのは石を割ったときに一緒に割れてしまった結晶の断面。
なんだ、青くないじゃん。っていう感じだけど、この結晶を1000℃くらいに加熱処理すると、売られているような鮮やかな青になるはずなのだ。
カシミールサファイアがなんで高価かというと、何もしなくても初めから目の覚めるような鮮やかな青をしているから。
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奈良県産サファイア
近鉄線がすぐ近くを走る住宅地のそば。自動車がバンバン走る県道脇に流れる小さな川底の砂の中に含まれている。
この砂の中からサファイアを探す。
青い石がサファイア。気の遠くなるような作業でした。
すばらしい青さ。ただし小さい。大きなものでも2ミリが限界。しかし、もしこの色で1センチくらいのが採れたら、サファイアラッシュが起こること間違いなしである。
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立派なサファイアを採集したことでカミさんは大満足だ。
例のサファイアにはかなわないけれど、日本産サファイアが手に入ったのはすごいことだと思う。何とかこれで我慢してくれたらいいんだけれど……。
っていうか、我慢しろっ!
先日、石友から長石(ちょうせき:フェルドスパー)の結晶をもらった。
カミさんはそれを手に取り、ウットリしている。
長石というと石英と並んで地球上でもっとも多い鉱物。それらだけで地球全体の90パーセントを占めているんではなかろうかというくらい、いつも近くに存在している重要な鉱物である。
でもさでもさ、長石って地味だよねー。
結晶の形は美しいと思うけど、透明じゃないし、赤や青の鮮やかな色が付いているわけでもない。
こんな石、今まで採集したこともなければ、気にかけたことすらなかった。鉱物採集をしている者としては失格だろうけど、一般的にはハッキリいって「どうでもいい石」ってことでいいんじゃなかろうか。
だがしかし、石ファンならば誰もが知っているであろう宝石も実は長石だったりするのだ。
代表的なものは4つ。
ラブラドライト、サンストーン、アマゾナイト、そしてムーンストーンがそれである。
ところで、長石は細かく分類するれば20種類以上にわけられるのだけれど、大きくわけるなら「斜長石(しゃちょうせき)」と「カリ長石」の2つにわけられる。
「斜長石」にはラブラドライトとサンストーンとアマゾナイトが含まれ、「カリ長石」にはムーンストーンが含まれている。
「斜長石」とか「カリ長石」なんてことは憶える必要はないんだけれど、宝石としてカットされているサンストーンとムーンストーンにだけは、それぞれ日本名で「日長石(にっちょうせき)」「月長石(げっちょうせき)」という名前が別についている。「斜長石・カリ長石」なんて呼ぶよりも、だんぜん風流だからぜひ知っておいてほしいな。
ちょっとややこしいんだけど、最近よく目にしたり耳にしたりするレインボー・ムーンストーンは「地が白くなったラブラドライト」のことなんだよね。実際にはムーンストーンじゃないんだけど、とびっきりキレイなモノは本家を超える価値があるとされているから、なかなかあなどれない。
さて、これらの石を購入する段になったとき、一番手にとって悩むのは確実に「ラブラドライト」と「ムーンストーン」だと思う。
ラブラドライトは七色に輝くラブラドレッセンス(もしくはイリデッセンス)がなければ意味のない石になってしまうから、売られているものはどれもちゃんとそれが出ている。
だからあんまり神経質にならなくてもいい。強いていうなら、何色が強く出ているか。でもそれは個人の好みだからね。
笑っちゃうんだけど、カミさんが持っているラブラドライトの原石は磨いてある部分にはそれが出てないんだ。磨いてないところにはちゃんと出ていて、「おもしろいから買った」なんてカミさんはいっているけど、ちょっと間違っているような気がする。
一方、ムーンストーンはシラーというユラユラとしたムーンストーン特有の輝きを楽しむため、丸くカットされていることが多い。その中に1本ピシッと光の線が出ているものが良いムーンストーンといえる。
さらに最高級とされているブルー・ムーンストーンは石自体が透明になり、青い光のベールをまとっているように輝く。さすが最高級とされるだけあって、すばらしく幻想的な光を放つんだよね。
(写真のムーンストーンはブルー・ムーンストーンです)
その昔インドではムーンストーンを「月の光が固まったもの」と信じられていた。
幸運をもたらしてくれるというこの石は、もうひとつ、「満月の夜に口にくわえると自分の未来が見える」という石でもある。
妖しい月夜の晩。部屋の明かりを消してムーンストーンからのメッセージに耳を澄ませるのはいかがでしょうか。